第63話 温もり

 エアコンが故障して、休日なのに業者に来てもらった。調べてもらうと、部品が一つダメになっているという。部品を注文し、後日改めて修理をお願いすることにした。外は冬晴れのいい天気。

 窓際にいると、冬の日射しが心地よい。つい居眠りをしてしまいそうになる。居眠りするところまでいかなくても、日向で目を閉じると、まぶたの裏の明るさに気付く。万華鏡のような模様が見えるときもある。

 日射しのおかげで、背中が温もってくると、読みさしの資料なんか放り出して、本格的に昼寝がしたくなる。差し迫った仕事はあるが、得難い暖かさを、手放したくはない。目の周りの力が、柔らかくほぐれる。

 幼い頃、自宅に広めの縁側があった。陽の当たる所に寝転がるのが好きだった。庭先にいる祖父は、いつも何か作業をしていた。鉈を研ぐこともあったし、風呂を沸かすための薪を割っていることもあった。

 塀の上では、猫が何匹かで昼寝をしていることもあった。野良猫だが、縄張りがあると見えていつも同じメンバーだ。縁側に寝転がる自分と塀の上の猫が、同じにも思えた。時間がゆったり流れていたと思う。

 気を取り直して仕事に戻る。明るいうちに済ませれば、夜はのんびりできるだろう。今日は熱燗。部屋の中でも息の白い夜、亡き父や祖父の真似をして褞袍(どてら)を着込み、少しずつ呑む。エアコン要らずの贅沢な時間だ。

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