第62話 驚く
知識が豊富なわけではない。感情が豊かなわけでもない。知らないことが多すぎるだけのこと。知らなかったことに気づけば、驚きもする。世の中は、驚くことばかりだ。ただ驚いた後どうなるか、違いはある。
文具店で販売されている液体のりが、違う分野で注目を集めたことがある。数年前の話だ。白血病や癌の治療に役立つという。関連会社の株価が上がり、電話の問い合わせへの対応が大変だったらしい。
白血病治療に必要な造血幹細胞の培養液や、放射線治療のとき癌細胞に注入した薬品が流れ出さないための成分として、液体のりの主成分が役立つ。身近な所に置かれた液体のりが、治療に大きく貢献した。
言葉で説明があれば、驚きで感情をかき乱されることはない。だが、修学旅行で見学した原爆資料館の映像は、衝撃的すぎてしばらく夢に出てきた。少年だった自分が映像を自分なりに理解するには、時間が必要だった。
知らなかったこと、不気味なことは、よく見て考え、調べるしかない。必要なら周りに聞くのもいい。その過程で、映像も音も、言葉に置き換えられていく。言葉にして初めて、驚きは知恵になるのだろう。
言語化が知恵に結びつかないこともある。それでも言葉は、直接響いてくる映像の衝撃を和らげ、意味や内容の「収まりどころ」を見つけてくれる。知らなかったことに驚き過ぎず、動揺することもない。
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