第46話 表具

 高校で書道部に入ったとき、書以外でもいろいろ学んだ。中でも興味深かったのが「表具」。作品を裏打ちし、パネルに貼り込む作業は、全部自分たちで済ませる。高校の書道の先生は、みんな職人みたいだった。

 書いて一週間乾燥させた作品を、作業台の上に裏返して霧吹きで湿らせる。中央部から周辺に向かって刷毛を使い、シワを伸ばしたら、水で薄めた糊をつけた裏打ち紙を慎重に乗せ、刷毛で撫でながら密着させる。

 裏打ち紙に密着した作品を作業台から慎重にはがし、別に用意した台に表向きに貼り込む。その際、裏打ち紙の周辺部だけを水糊で留め、陰干しすれば一段落。湿った作品が乾燥すると、縮みながらシワを伸ばしていく。

 ここまでが「裏打ち」。後はパネルに貼って周りの紙を工夫し、枠木をつけて完成。この技術は大学でも役に立った。金のない学生が公募展に出すとき、展覧会用の貸額料金だけで精一杯。表具店に交渉したのだ。

 他の出品作の裏打ちを手伝う代わり自分の裏打ち料金はタダにしてもらい、公募展に出した。当時の表具店の社長には頭が上がらない。高校の書道室におじゃまして、刷毛使いの練習をさせていただいたこともある。

 仕事をしながら、公募展への出品は続けている。自分で表具する時間が取れないため、仕上げは表具店に頼りっぱなし。表具の腕も衰えた。せめて書の腕前だけでもマシにならないと、社長に何だか申し訳ない。

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