第45話 硯

 書は中国で生まれた。だから中国の古典を学ぶのが一番勉強になる。高校時代の恩師は、平凡社の書道全集を手本に、練習しまくっていた。書を学ぶ人間として、書の古典を生んだ昔の中国を尊敬している。

 だが、石碑で残る古典を除き、今の中国で見たいものはない。紙に書かれた古典は、ほとんどが台湾の故宮博物館に納められている。故宮展が日本全国を巡回したとき、福岡で見た感動は忘れない。圧巻だった。

 書に取り組む際、使う道具が文房四宝。墨・筆・硯・紙の四つを指す。いずれも作ってくれる職人あってのものだ。書に取り組む人間が頼るのは、実は日本の職人だったりする。わざわざ中国製を買うまでもない。

 硯の材料となる石だけが例外。日本の地層は若すぎて、硬い石が取れない。中国製の硬い墨を日本製の硯で磨ると、硯が傷む。自分用の硯は中国製。もっとも、買うときにちょっと気になる話を聞いた。

 古い地層の石が硬いことは聞いていた。でも、取り寄せた業者いわく、何割か「掘り出し物」があるという。触ってみて冷たさが持続する石、保水率の高い石が、本来の値段より安くで交じっていたというのだ。

 保水率の高い硯は、墨を磨るとき、石の中に水分を吸収しない。使い勝手がいいのだ。輸出する側が気づかなかったとしたら、文化の理解度を疑う。日本の職人が中国の石を探し文化を守る時代になった。

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