第44話 筆
書に親しむ者にとっていつも気になるのが、使われた筆。他人の作品を見ればどんな筆を使ったのか気になり、自分の作品を仕上げるときには筆をあれこれ試したくもなる。梅雨時には、紙とともに保管に気を遣う。
漢字で伝統的な作品を制作するとき使う筆は、書体や書風によって変わる。馬や狸のような腰の強い筆のときもあれば、鼬や羊などの柔らかい筆のときもある。日本の仮名書道では、猫の毛が好まれる。
筆に使われるのは獣毛。材料不足で、最近質が落ちている。芯の命(いのち)毛(げ)には、ナイロンが使われるようになった。筆の腰が強くなり素人には使いやすくなるが、にじみやすくかすれやすい筆になる。
昔、筆職人を抱える会社は、材料の獣毛を自社で買って職人に使わせていた。今は職人に発注し、獣毛も職人に買わせている。ただでさえ少ない儲けを確保するため、職人は使う獣毛の質を落とさざるをえない。
買う側は、専門店の倉庫から数十年前の筆を探し出し求めることになる。値札は昔のままだ。それでも売れたと聞けば、職人は嬉しい。同じ職人の筆を使い続けていたら、その職人が筆を一本作ってくれたこともあった。
自分の作った筆で書かれた作品の写真を見て毛組みを工夫し、わざわざ送ってくれた。公募展で珍しく特選だったのは筆のおかげだ。擦りきれるまで使った。全ての芸術は、作家と職人の協力でできている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます