第38話 方言1

 子どもの頃、素直に言うことを聞かず屁理屈ばかり言っていると、「まっこち、じょきなもんじゃ。」と言われた。標準語で言えば、「本当に、強情(な子ども)だ。」となる。この言葉、ずいぶん古いいわれがある。

 「じょきな」は、宮崎県南部の日南市で使われる方言。さらに南にある串間市では「じょしきな」という。「じょしきな」は「じょうしきな」が変化したもので、漢字で書くと「情識な」となる。

 「情識」は仏教用語で、迷いの心のこと。転じて強情、頑固であることをいうようになった。室町期の「風姿花伝」(世阿弥作)に「稽古はつよかれ、情識はなかれと也」とある。ずいぶん高尚な由来をもつ言葉だ。

 そういえば昔、祖父から「わじょはなんしちょんなっとか」と言われたこともある。「わじょ」は「わじょう」の変化したもの。「和丈」または「我丈」と書く。「あなた」という意味で「丈」は敬称。優しい声かけだった。

 「わじょ」だけではない。祖父はこうも言っていた。「昔はバスどんねがったかい、あゆんでいきよったとよ。」……。「あゆむ」は「歩く」の意。名詞で「歩み」とは言うが、動詞で使う語例は、平家物語がルーツだ。

 宮崎方言「よだきい」は、古語辞典に「よだけし」の形で載っている。「おっくうだ。めんどうくさい」の意。幼かった私にとって、古めかしい方言を操る祖父は、仙人にしか見えなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る