第33話 呼吸税

 花粉が飛べば騒ぎ、中国でスモッグが発生すれば騒ぎと、環境についての議論は賑やかだ。自分が花粉症でなければ気にならないところだが、そうも言っていられない。安心して呼吸ができない時代になってきた。

 日頃スギ花粉に囲まれて暮らしているので、市街地に出れば、てっきり楽になるかと思っていた。確かにあまり飛んではいないが、マスクは必要。アスファルトに落ちた花粉は再飛散する。しつこいのだ。

 中国でスモッグが発生すれば、日本も大変だ。でも、火山が近くにあれば火山灰に悩まされる。クルマに積もれば、ワイパーは使えない。キズがつく前に、水で洗い流す必要がある。洗車でもマスクは必需品だ。

 林業関係の仕事をする方の息子が、面白いことを言っていた。学校の宿題で作文を書いたという。題は「呼吸税」。文字通り、人間の呼吸量に応じた課税だ。成人に一律で課税し、都道府県の緑地面積に応じ還元する。

 自分の父親が、苦労の割に稼ぎがないと思ったのかもしれない。緑地が少なく人口の多い都心部の税収が、人口の少ない地方に流れれば、山林や水源の保全がなされ、外国資本が買い漁ることもない。

 杉は花粉も出すが酸素も作る。花粉が土に落ちれば再飛散はしない。「エラそうな口を利くだけで勝手に呼吸するヤツが嫌い」と彼は言う。花粉症を理由に杉を毛嫌いしては、バチがあたりそうだ。

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