第11話 教養

 教養は身につけるものではない。中学のころの担任の口癖だ。自分から削ぎ落とすだけ削ぎ落とした後、残ったのが教養だとも教わった。知識や技能を身につけるだけでは足りない。自分の一部になっていないのだ。

 新しい言葉を覚えても、文章表現で使えなければ意味がない。文章表現で使えても、行動が伴わなければ信用がない。信用できない言葉は、邪魔なだけで削ぎ落とした方がマシ。削ぎ落とされれば何も残らない。

 思考ツールとしての言葉が、せめて行動の指針になっていれば教養に近づく。行動の指針にするための言葉は、かなり練り上げられた内容が求められる。言葉を練り上げる営みは、短い間にできるものではない。

 江戸時代、越後に良寛という僧がいた。厳しい戒律と学問、さらに毎日の作務で有名な円通寺で修行。一人前の僧として印可を賜り、自らの質素な生活と簡単な言葉だけで仏法を説いた。練り上げられた言葉だ。

 良寛は「戒語」で「~くさき」「~めきたる」言葉を戒め、「愛語」で親愛の言葉の精髄を示した。仏教用語を使わず仏法を説いた良寛の言葉は、いつも易しく優しい。自らの言葉で語る良寛にこそ、教養はあった。

 教養は身につけるものではない。養うものだ。教養という心の豊かさを養うのは、注意深く選び抜かれ、練り上げられた言葉。その言葉が生きる指針になるとき、言葉は「言霊」となる。教養は言霊でできている。

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