第10話 鰹

 生まれも育ちも漁師町のせいか、刺身には目がない。特に赤身が好きで、鮪や鰹はいくらでも入る。だが、ホンマグロは都市近郊に送られ、地元にはキハダマグロやシビマグロくらいしか水揚げされない。

 刺身醤油は、甘口が好みだ。地元で作られた醤油は濃い甘口で、バニラアイスのトッピングとして北米に輸出されてもいる。漁師になった同級生は、醤油にマヨネーズを混ぜていた。慣れるとこれも美味しい。

 鮪以上に好きなのが鰹。初鰹は春先だが、個人的には脂の乗った七月ごろのが好ましい。鰹の刺身があれば夏バテはしない。秋の戻り鰹の歯応えも、夏の味とはまた違った良さがある。幼いころから親しんだ味だ。

 鰹は、刺身以外でも楽しめる。たたきもいいし、軽く炙った鰹を丼メシに乗せ、醤油だれをかけてもいい。刻みネギやワサビを添えるのがポイントだ。旨み成分のギュッと詰まった鰹は、酒の進む食材でもある。

 何より好きなのが生利節(生節)の味噌汁。汁椀二杯分の水を鍋に入れ加熱。生利節四分の一をほぐして入れ、アクを取りながら三分。火を止めて味噌を入れ、刻みネギを入れるだけ。わずか五分でできてしまう。

 生利節だけでも美味しいのに加え、鰹のダシも取れる。食欲がないときも無理なく食べられるし、これだけで酒が飲めると言う知り合いもいた。港に船が戻るころ、一升瓶を抱えて同窓会をするのが楽しみだ。

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