第5話 桜花
日本の春を代表する花といえば桜。奈良時代までは、遣唐使のもたらした梅に人気があったが、平安時代、遣唐使の廃止とともに日本独自の文化が栄え、見直されるようになった。九州では一月に咲く品種もある。
奈良時代の「万葉集」では桜四八首に対し梅一一〇首。平安時代の「古今和歌集」では桜七〇首に対し梅一八首。和歌にもよく詠まれてきたのが桜。開花時期で田植えを判断していた花でもあった。
奈良時代の日本人は、桜に「お供え」をしていた。桜には、季節の変化に対応する日本の暮らしや風習、宗教的な考えが背景にある。日本人にとって、花といえは「桜」という前提があったのだ。
天照大神(あまてらすおおみかみ)より古い山の神「サ」は、農作物の神。木花開耶姫(このはなさくやひめ)は霞に乗って桜の種を蒔く神。神々の御倉(みくら)として、神々が宿るのが桜だった。「『サ』の神が宿るみ『くら』」を省略してつけられた名である。
別の説もある。「咲く」に複数形の「~ら」がついたというもの、花が華麗に咲く「咲麗(さきうら)」の略、樹皮が縦や横に裂ける「割開(さけひらく)」の略、「花曇(さきくも)る」の意味の転化など。関心の高さがうかがえる。
よく目にするソメイヨシノは、江戸時代の園芸種。在来種としてはヤマザクラが代表的で樹齢も長い。葉の陰に、長いこと花をつけていてくれるのも嬉しい。御先祖に倣って一句詠む。葉桜の隙間より花こぼれけり。
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