第3話 こだわり

 こだわりがあるというと、評価が分かれる。深い考えがあっていいと言われるか、単に面倒くさいヤツとして切り捨てられるかだ。自分の考えが常に求められている訳はないので、こだわりは少ないほうがよさそうだ。

 こだわりの味をアピールする店は、その味を好まない客に嫌われる。こだわり過ぎると、新しい発想ができなくなって新規の客も来なくなる。もともと、こだわるのは些末なことであって必要なことではない。

 流行語大賞も、似たようなものだ。メディアやネットで有名な人の発想や発言にこだわる人が増えれば「賞」がもらえる。いずれは廃れる流行にこだわるのは、時間の無駄でしかない。だが言葉は大切である。

 ら抜き表現は、若い世代を中心に定着した感がある。NHK以外の放送やネットでは、昭和生まれのオヤジも使っている。就職活動で事前に矯正される言葉遣いのひとつだ。この言い方をする学者は信用できない。

 書き言葉の「人達」は、世代を問わず増えてきた。正しく「人たち」と書ける人の方が少ない。常用漢字表でこの字を「たち」と読めるのは、「友達」という二字熟語のときのみ。国語の先生でも間違うことがある。

 意思や感情を伝えるのが言葉。文法や常用漢字を大切にする態度は「こだわり」ではない。些末ではなく必要なことだ。現時点での「正しい」言葉の使い方は、廃れることなく伝える最低限の条件である。

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