第2話 銀杏
子どもの通っていた小学校の校庭に、銀杏の木が植えられていた。樹齢二〇~三〇年くらいで、黄色い落葉がランドセルの底に数枚あるのは、毎年恒例だった。落葉を片付ける先生方は、さぞ大変だったと思う。
表具店を営む知人に聞いて、校庭の落葉を集めるようになった。天日に干して乾燥させたら、不織布のティーバックに詰め込む。紙類に寄ってくる小さな虫は、この匂いで防ぐことができる。一、二年はもつらしい。
銀杏はまた、火に強いことでも知られている。延焼を防ぐため、植えられていたところもあるそうだ。さまざまな防衛力を持つ銀杏は、樹齢も長い。神木として祀られる神社があるのもうなずける。
同じく神木として祀られる楠からも、防虫剤の樟脳が取れる。だが若木のうちは折れやすくて弱い。銀杏も、木に雌雄の区別があり、片方だけでは子孫が残せない。生き残り大きく育って初めて、神が宿るのだ。
雄の木が出した花粉は、風に乗って一キロ先まで飛ぶ。力尽きて土に還る花粉も多かろう。雌の木にたどり着いた花粉は、花粉室で細胞分裂し精子を作る。精子は自力で泳いで授精を果たす。一二〇日間のドラマだ。
野性絶滅危惧種に指定されながら、中生代から同じ姿で生き延びてきた銀杏。生存競争を勝ち抜いた銀杏に、遺伝子情報の生き残り戦略を感じるのは、穿ち過ぎだろうか。生存の能力は、少なくとも人類を超えている。
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