第75話 囚われしもの

―まえがき―


お久しぶりです。

二ヶ月ぶりの更新になりますね。

あとがきにてお知らせがあります。


――本編――





 地下へと続く階段を下り大きな部屋へとたどり着く。元は倉庫として作られていた部屋なのであろう、質素で飾り気がなく、しかし丈夫に作られているように見える。その部屋の奥に、小部屋として区切られた扉がいくつも設けられていた。虎人はその部屋の一つの前まで進むと、扉に手をかけ力を入れる。鍵が掛かっている扉ではあるが、虎人の豪腕の前ではあまり意味を成さず、バリバAリと音を鳴らしながら開かれていく。


 部屋の中は大部屋同様質素な作りになっていたが、粗末という訳ではなく、ある程度は整えられていた。むしろ小綺麗にさえ思える。大切な荷だからこそ粗末に扱うのではなくある程度のは丁寧に扱われるのだろう。


 室内にはベッドが置かれており、その上では静かに寝息を立てている少女がいた。虎人によって連れられて来た少女である。


 室内には寝ている彼女の他にも別の人物が存在していた。ぱっと見ハーピー族の少女と同じ位の年頃にみえる。腰まで延びた蒼い髪に同じく深い青の瞳、そして特徴的な長く尖った耳。│エルフ《森に住まう人》である。エルフの少女は、突然現れた虎人に眼を見開いて驚いてた。それもそうだろう。巨大な虎の姿をした巨漢M程度がいきなり扉をやぶって部屋に入ってきたのだ。驚かないほうがどうかしている。しかし少女は驚きはしたものの声を上げることはなかった。いや、実際は悲鳴を上げていたのかもしれない。しかしそれは口から発っせられることはなかった。


 その少女の喉元には大きな傷跡があった。首から胸元にまで広がるその傷は完全にふさがっており、傷を負ってから既に長い時間が経っているようにみえる。恐らくはこの傷が原因でこのエルフの少女は声が出せなかったのだろう。


「声無し! どうしたっ!? おいっ!」


 声なし___このエルフのことであろう、少女に絶え間なく声をかけるように隣の部屋から怒鳴る声が聞こえてくる。


「おいっ! どうした! 返事しろ! って言っても喋れないか! くそっ!」


 声だけではなく激しく扉を叩く音も同時に聞こえてくる。恐らく扉を壊して部屋の外へ出ようとしているのだろう。


「くそ! やっぱり開かないかっ! おいウロ! なんとかしろよ!」


「___若、我らに出来ることはなイ。」


「ふざけるなっ! だからって黙って見過ごせって言うのかよ!? おいっ!聞いてるかクソ野郎! 声無しに何かしてみろ! 括り殺してやる!」


 未だ鳴り止まぬ怒鳴り声に蕭々煩わしさを感じながらも、虎人はたいして気にも留めずにエルフの少女へと近寄っていく。


「ふむ。エルフの娘とは珍しい。この近くにエルフの里は無いと思っていたが。ぬし、逸れか。」


 声無しと呼ばれている少女は、虎人の言葉に明らかに反応する。どうやら虎人の予想通りこのエルフは何らかの訳ありのようであった。しかし、そんな事は虎人にとっては、なんら関係もないことである


「そう構えずともよい。別にぬしをどうこうする気は無い。ワシが用があるのはそっちの娘だ。」


 寝ているハーピー族の少女を指差す。それを目にしたエルフの少女はハーピー族の少女を庇うような形で覆い被さる。


 「別にその娘をとって食ったりはせぬ。それより、ぬしはその娘の仲間か?」


 狼人の仲間には珍しい者が多くいたので、もしかしたらこのエルフも仲間なのではと思ったが、反応をみるにどうやら違うようだ。


 寝ているハーピーの少女を担ぎ上げ部屋から出ようとすると、袖を引っ張られる。振り向くとエルフの少女が怯えた表情をしながらも必死に止めようとしているようだ。


「先も言ったが取って食ったりはせぬ。心配ならぬしも一緒に来ればよかろう。」


 虎人の言葉に不安をいだきながらも、エルフの少女はそのまま虎人の後ろを付いていく形で部屋から出ていくのであった。






――――――――――――――――――――






「商人の屋敷というだけあって食い物はそこそこ揃ってはいるな。」


 机の上に並べられた様々な食べ物を、物凄い勢いで消費していく虎人をエルフの少女は呆然と眺めていた。


「何をそんなに眺めておる。」


 声をかけられ、少女は戸惑いをみせる。周りには虎人とハーピーの少女以外誰もいない。辺りを見渡しても、本来いるはずの屋敷の人間がまったく見当たらなかった。そもそも捕らえられている自分がなぜ部屋から出ても捕まらないのか、そんな事を考えているようにみえた。


「何をそんな確認しているか知らぬが、この屋敷にはもう誰もおらぬぞ。」


 虎人の言葉にさらなる困惑をみせる。それもそうだろう、今の今までこの屋敷に囚われていたのだ。それがいきなり誰も居なくなるなど意味がわからない。


「この屋敷の商人はもう生きてはおらぬ。使用人どもは邪魔だから払い除けた。今この屋敷にいるのは捕らえられていた者たちだけだ。」


「!!?」


 驚いた表情をしているエルフの少女であるが、虎人はさして興味もないのか、少女に構うことなく食事を続けている。すでにかなりの量を食べているだろうに、まだ足りないのか手は止まることなく食べ物を口に運んでいる。



 虎人が大量の食料を食べ終えるまでにあまり時間は掛からなかった。その間エルフの少女はただ黙って見ているしかできなかった。


「ふむ。腹は減ってはおらぬか。だが今のうちぬ食っておかねばこの先いつ飯にありつけるか分からぬぞ。ムリにでも腹に詰め込んでおけ。そして食い終えたら何処なりでも行くがよい。」


「!?」


「何を呆けておる。ぬしを捕らえていた商人は既におらぬ。ならば此処に留まる理由もなかろう。まぁ、出て行きたくないと言うのならば好きにすれば良い。ワシにはどうでもいいことだ。」


 エルフの少女は驚き、そして困惑した表情をみせる。もし虎人の言うことが本当なのであれば、これまで捕らわれの身だったのがいきなり自由の身となったのだ。


 事実なのであれば、いつまでもこの屋敷に留まっている理由はない。すぐにでも屋敷から出て行くべきである。


 しかしエルフの少女はそうすることなく、留まっている。その瞳には戸惑いの色が濃くでている。これからどうしてよいのかわからないのかもしれない。


 エルフの少女は、ソファに寝かされているハーピー族の少女に視線を向ける。そこに何を求めているのかは、うかがい知ることはできない。


「この娘はまだ開放するわけにはいかぬぞ。」


 エルフの少女の視線に気がついた虎人は己の考えを口にする。


「この娘にはまだ使い道があるのでな。」


 そう、虎人はまだハーピー族の少女に用があるのだ。

 見逃すことの出来ない用が。


 虎人は気配を探り寄せる。


「ふむ。まだ居るようだな。」


 その気配を察知し、歯をむき出し笑う。

 ハーピーの少女の傍らに、未だ寄り添うように存在するその気配。

 精霊の気配を感じ虎人は沸き立つ感情を抑えもせず笑いを上げる。

 精霊は少女を見捨てる気はないのだ。





 つまりはそういう事だ。









「___狼人よ、早く来るが良い。」








――あとがき――




ここまでご覧いただきありがとうございます。

また、ここまで更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。

更新が遅れました理由につきましては、作者近況報告にて記載しております。

もし気になる方はそちらを参照して頂けますと幸いです。


そして、近況報告でもお知らせしましたが、来年から新作を新連載いたします。

【今どきハンドガン】につきましては、更新が遅れるかと思います。

その理由も近況報告にて記載しております。


楽しみにして下さっている皆様には大変申し訳なく思っておりますが、何卒ご理解頂けますと幸いです。


ただ、更新は遅れてはしまいますが、作品自体は、投稿を続けて行きたいと思っております。最後まで完走を目指しておりますので、長い目で見守って頂けますと大変うれしく思います。


そして、来年から始まる新連載についてですが、こちら幾分ストックがございますので、連日投稿を予定しております。そこそこ文量がありますので、お暇つぶしにはなるかと思いますので、新連載も合わせて、今後ともお付き合いして頂けますと幸いです。




それでは、これからもヤナギ・ハラをよろしくお願いいたします。

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今どきハンドガンだけで異世界とか地味すぎる!! ヤナギ・ハラ @yanagi_hara

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