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夏になっても今年は一向に気温が上がらなかった。立て続けに台風が通り過ぎたせいだ。カンカン照りの日差しより、厚い雲に覆われた薄暗い日の方が多かったかもしれない。楽しみにしていたプールに入れないと園児達は残念そうにしていた。
その日はお盆の期間だったけれど私と数人の職員、それと数十人の園児は幼稚園にいた。保育園側からの子供達に向けた配慮だった。お盆に仕事を休めない親が昔に比ベて随分増えていた。
丁度、大型の台風が近くを通っていて、外は一面灰色をしていた。
天候のせいなのかもしれないけれど、この日私の体調は良くなかった。朝から少し体が重く、肩こりと頭痛がひどい。出来るだけ椅子から動かないで、クラス内の園児達を眺めていた。
外で閃光が走った。雷鳴が響き、土砂降りが屋根や窓ガラスを叩き始める。驚いた数人の園児は泣き出しそうな顔をした。
「大丈夫だよ。何も怖い事は起こらないから」
私が声を掛けた瞬間、大きな雷鳴と稲妻が走った。避雷針に落ちたようで園内の電気が消えた。電気の消えた教室内は思いのほか薄暗かった。叫び出す園児、泣き出す園児の声が聞こえる。けれど薄暗くてどの子が泣いていて、どの子の所へ向かえばいいのかわからない。私は皆を安心させようと立ち上がって声を掛けようとした。
悪い事は立て続けに起こってしまうみたいだ。
私は立ち上がったはずだったけど、いつの間にか身体を床に預けていた。身体が動かない。多分、貧血か何かだろう。周りで園児達が泣いている。パニックを起こしている子もいた。けれどその声は、どこか違う遠い場所から聞こえるようだった。
私のそばに一人の園児が近づいてくる気配を感じた。「大丈夫?」と尋ねるその声に、私はかすれた小声しか返せない。その男の子はショルダーバッグを掴み、耳に当てると小声で何かを呟き始めた。それからその子は大きな声で
「掃除道具のある棚にライトがあるって。先生は大丈夫だけど、足を高い所に上げるとよくなるって。誰かクッション持ってる? それを足の下に敷けば大丈夫。あとここは『ひらいしん』って言うのがあるから安全だって」
初めて聞いた
眠りに落ちるように意識が遠くなっていく中、いくつもの小さな手が足を持ち上げてくれる。
小さな手のひらが私の額を撫でた。
少しだけ震えている。
私は小さな声で「大丈夫だよ。ありがとう」と言った。
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