高校受験
これは数年前、僕が中学三年の受験生だった頃の話。
兄妹がエリートルートを辿っていたこともあり、僕も同じ道を期待されていたのだが、致命的なことに僕は勉強が嫌いだった。
高校選びの段階で僕は既に大学進学に有利な進学校への入学を諦め、大学に行くことを放棄すると言っても過言ではない就職校へと進むことに決めていた。
就職校というのは、正直な話偏差値はあまり高くない。
勉強をある程度サボって舐めた心意気で受験に挑んだとしても筆記試験は意外と何とかなったりするものだ。
しかし、面接試験はそうはいかない。
ほとんどの生徒は高校卒業と同時に社会人になるという就職校の特性上、見られるのは『学力』よりも『人間性』である。
教師からしたら我が校から社会に羽ばたかせて恥にならない人間を見極めなければならないのだ。
だが、そんなことは当時の僕には知る由もなく、筆記試験の時と同じく舐めてかかった。
面接は4人同時の集団方式で行われ、面接官の質問に対し、受験生が挙手して答えるという、コミュ障の僕にとっては地獄のような試験だった。
しかも、質問が投げかけられた直後に僕意外の全員が当たり前のように挙手をするので、答えを考えている分挙手が遅れた僕は、あのメンバーの中では少し浮いていた。
中学の頃、進路指導の先生にこう言われたことがある。
「面接はコンテストだ」と。
いかに自分はすげぇ奴かというのを面接官に知らしめる場だと教えられた。
ともなれば、その教えに従い自分自慢をこれでもかと言うほどアピールしてこなければならないのだが、準備不足で一手遅れた僕は既に他のメンバーにアピールポイントで劣っていた。
そこで僕は考えた。
回答が遅れてもいいから、とりあえず他の誰にも負けないような、面接官の印象に残るような回答をしようと。
何度か質問をされるうちに、他のメンバーが大して変化の無い同じような回答を用意してきていることが明らかになった。
これは恐らく、全員が全員同じような資料に目を通し、同じような部分に目を通してきたからだろうが、それすらも目を通していない僕にとってこれは好機だった。
なぜなら、絶対に他の人間と回答が被らないからである。
言うことが被らなければ、多少回答が遅れても面接官の心には残るはずだ。
この瞬間から、その場にいた受験生4人は、
『何も用意してこなかったのがバレバレな1人と、挙手の早い意欲的な3人』から、
『1テンポ遅れるが考えられた回答をする1人と、すぐに挙手をするが、明らかに考えてきたであろう被った回答をする3人』に変貌を遂げた。
それからの面接は比較的リラックスして臨むことができ、相も変わらず回答は一番最後でも面接官の予期しないような変化球を投げつけてとりあえず覚えてもらうように徹した。
これが正しい判断なのかどうかは分からなかったが、もし仮に僕がちゃんと面接の準備をして他の受験者と同じような回答を用意した場合、あまり受けは良くなかった気がする。
良くも悪くも、面接官から見たら有象無象となってしまう。
下手くそでもいいから、自分を覚えてもらう。
受験終了後、面接官が受験生の資料を流し見している時に、
「あ、そういえばこいつ……」
と思い出してくれるようなことが必要だと僕は考える。
野鳥の巣箱 フクロウ @epona
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