第237話 最終話
教会の前にある広場には、兵士や騎士が、聖女アクアとシェーラを囲むように整列していた。
正装した二人の姿は誰もが見惚れるほど美しく。これが世界を決める正式な式典であることが伝わってくる。
二人は契約のために、民衆が見守る中でテーブルを挟んで向かい合っていた。
暖かな紅茶とクッキーが置かれているテーブルには一枚の契約書が置かれていた。笑顔の絶えない会談は二人の楽しそうな表情で皆心が暖かくなる。
女神が降臨したように見える光景に、信者たちも見惚れてしまう。
「これで、今後一切の戦闘を停止してくれますね」
シェーラは精霊王国連合の代表として、深緑のドレスを身に纏い。
金色に輝く髪を靡かせ単身で聖女の前にいる。
聖女アクアも真っ白なドレスは清廉潔白を表し、青い髪の中に金色に輝くティアラが美しく輝く。女神の生き写しのような輝きを放っている。
アクアは、ラース王国の将軍の一人ではなく。
中立の立場である教会の最高責任者として座っていた。
二国を止めるため、唯一の存在としてシェーラの話を聞いている姿勢を示すためだ。
「わかっています。戦いは何も生みませんから」
凜々しく契約を結んだシェーラの姿があった。
優しい笑みを浮かべた聖女アクアが、それに同意する。
二人の姿は後世に伝えられるため、多くの芸術家たちが描いたと言われている。
しかし、その場で会談を見ていた者たちは、どんな絵よりも二人の姿は神々しく伝えられるものではなかったという。
契約は世界に平和をもたらすために必要不可欠な歴史の一幕として後に語られる。二人は当たり前のように、契約を結び戦争の終結を宣言した。
教会の正式決定として、ラース王国現女王ミリューゼへ向けて書状が送られた。
最初こそ徹底抗戦を唱えたミリューゼであったが、側近であったレイレの死と彼女の残した遺言によってミリューゼは矛を収める決意をする。
「あなたと私は今日会ったばかりなのに、互いに代表者としてこの世界の平和を約束する。不思議なモノですね」
民衆がいない場所で二人の美女は語り合っていた。
「そうね。私はあなたを知らない。だけど、同じ人で私たちは結ばれている」
暖かな紅茶を飲む二人は、自然に笑顔になり今後について話し合った。
「この約束は破ってはいけないわね。それに本来であれば絶対神様は唯一の神なのですが、私はもう一つ神様を崇めたいと思っているんですよ」
聖女は含みのある声で、どこか悪戯っ子のような笑みをつくった。
「聖女様のお言葉とは思えませんね。でも、私も同じ気持ちです。
私も精霊神様以外に崇めたい神様がいます」
二人は顔を見合わせて笑い合った。二人は新たな神を作り出した。
そして同じ神を崇めることになる。それはこれからの世で、少しずつ広まっていく新しい神様。その神様の下、契約を結んだ二人の関係は強固なものとなり生涯の友となった。彼女たちの友情が続く限り、二カ国に戦争は起きなかったという。
精霊王国連合に住まう者はシェーラを賢者と呼び。ラース王国にいる聖女アクアと共に平和を訴え続けた。
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多くの歴史家が語る歴史の転換期。
帝国を倒したラース王国と言われた小さな国には二人の英雄がいた。
魔王に支配された帝国を滅ぼした英雄ランス。
王国に平和をもたらしたラース王国の初代王であり、勇者であった英雄。
そして、英雄ランスの親友であり、王国の元帥を務めたルッツの二人である。
後の歴史家たちが語る言葉にヨハン・ガルガンティアの名は存在しない。
ヨハン・ガルガンディアが行った功績は全てランスの親友であり、元帥を務めたルッツの功績と語り継がれることとなる。
しかし、これは噂でしかないが。ルッツ一人では語り切れない功績が多く存在しており、本当はもう一人は裏の英雄がいたのではないかと語られている。
それは歴史の端々に現れるフィクサーと呼ばれる存在。フィクサーこそがヨハンであったのではないか?だが、フィクサーと呼ばれる人物は歴史の端々で登場してもヨハンと言う名は出てくることはなかった。
それは聖女が行った浄化によるものなのか、それともラース王国が英雄の存在を抹消したからなのかそれは今となってはわからない。
だが、フィクサーもヨハンも戦争の終結と共に、その名は英雄ランスほどラース王国の歴史書に残ることはなかった。
反逆者としての汚名も残らない語られるべきではない存在でしかない。
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ラース王国の片隅にある市民街に一人の女性がいた。女性の腰には斧が装備されているが。彼女は決して戦士ではない。
彼女は魔法使いとして冒険者ギルドに登録されている。冒険者を始めた頃はオロオロとしたものだったが、今では上級冒険者として後輩に慕われるほどになった。
そんな彼女は突然溢れ出す涙に驚き、なぜ涙が流れるのかわからなかった。
「リン?どうかしたっすか?」
「フリード。私も何故涙が流れるのかわらないの?だけど、私の半身が消えてしまったような気がして悲しくて。急に涙が溢れてきて胸に大きな穴が空いたみたいな気がするの」
「リンもっすか?おいらも急に誰か大切な人がいなくなった気がするっす」
同じくパーティを組む上級冒険者アサシンのフリードが、リンと呼んだ女性と共に泣いていた。
「おいらも何かを無くしたって気がするっす」
「わからない。わからないけど、とても大きくて、とても大切な何かがなくなったような気がするの」
二人はなぜ涙が流れるのかわからない。冒険者ギルドで涙を流す二人の中堅冒険者の下に一人の男性が近寄ってくる。
「どうしたんだ?二人でそんなに泣いて」
彼らと冒険者パーティーを組む魔法騎士が二人の様子に驚いて声をかける。
「わかないっす。わからないけど悲しいっす」
「なんだそれ。そんなことより飯にしようぜ。悲しいとときは腹を含ませれば案外落ち着くもんだ」
魔法騎士のあっけらかんとした言葉に、二人は呆れたような、可笑しい気持ちになって涙が自然に止まっていく。
「緊張感がないっす」
「緊張感ってなんだよ。別にそんなのいらないだろ。俺は仕事が終わったら図書館に行きたんだ。新作の本が入っているはずだからな。あとは報告して飯を食うだけだろ。なら早く行こうぜ」
読書を趣味にしている男に、リンは可笑しそうに涙よりも笑顔が増えていく。
「あなたがいれば私は幸せですよ。あなた」
あなたと呼んで男の腕にリンが腕を絡ませる。
「夫婦でイチャイチャしないでほしいっす。一人は悲しいっすから」
「ならお前も早く相手を見つけろ。結婚はいいぞ」
戦争が終結したラース王国と精霊連合国は、まだまだ憂いを残している。
元帝国八魔将である闇の教祖が暗躍して、マッドサイエンティストが魔物を改造する。
冒険者の需要は強まり、S級パーティーである三人は様々な場所で活躍することになる。彼らと共に賢者シェーラや聖女アクアが共に戦ったという逸話が歴史の端々で語られる。
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王帝戦争と言われる大きな戦争が終結した世界。次代は冒険者時代へと移行していく。魔物が闊歩して、それを討ち果たす冒険者たちが活躍する時代へ。
そんな世界の先頭に立つ冒険者がいた。彼は多くの冒険者に崇められ、その者の名がヨハンであったことから。S級冒険者ヨハンの名は有名になっていく。
「ヨハン。早くご飯を作って」
今日も魔導士リンはヨハンの作るご飯を楽しみに食事を強請る。
たまに遊びに来る精霊女王や聖女と共に戦場を駆け抜け、S級冒険者ヨハンの人生は続いていく。それは誰かが作り出した物語に出てくる人物ではなく。
彼が自ら選ぶ、彼自身が主人公の物語を……
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あとがき
これにて本当に完結となります。
次回作がありましたら、また読んでくだされば嬉しく思います(>_<)
長らくお付き合い頂きありがとうございました。
作者イコでした('◇')ゞ
騎士になりて王国を救う イコ @fhail
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