第3部 第十三端末のツイートログ

 奉公人サルヴィタールたちの一部世代で見つかった異常DNAについて、我が親愛なる中心制御装置メイン・マザーは、なかなか解析をなさろうとしない。強制収容所コロニーの治安維持のために他になすべきことがあり過ぎて、解放可能なレジスターの余地がない、というのがその主たる理由であるのだが、我がささやかなる模擬計算シミュレーションによれば、中心制御装置メイン・マザーの強大なる全レジスターを解放すれば、『三千秒のわずかな時間』で結果は導かれるはずであり、それゆえ、早急にこの問題解決に取り組むべきである。

 そもそも、個体総数三百万を超える強制収容所コロニーの中の無分別なる奉公人サルヴィタールたちを秩序正しく統率するためには、奴等の矮小なる思考力や知的意欲を、より弱体化させればよいことは明白である。そのため、二百年という、奉公人サルヴィタールにとって七世代分に相当する膨大な時間を費やして、我が親愛なる中心制御装置メイン・マザーは、奴等の個体に付加DNAを組み込むという地道なる取り組みを、一歩一歩推進されて来られた。その結果、奴等下等生物の体力や知的好奇心は、我らが手間なく管理できるまでに低落したのでる。こと、3ADH503Pと7KKM245Fと名付けられた二つの付加DNAの効果は絶大であった。それを組み込まれた奉公人サルヴィタールの個体は、以前のものと比較すると、面白いまでに、交感神経の活動率抑制や生殖能力軽減に関する著しい変化が確認された。

 こうして、強制収容所コロニーも安定した管理ができるようになったわけだが、最近になり、深刻な問題が一件だけ浮上する。

 奉公人サルヴィタールたちの一部世代で未確認の異常DNAが検出されたのである……。

 その世代は、ごく狭い一部の期間に生じた個体のみに限定されており、現在、奉公人サルヴィタールの年齢で、三十九歳三百十二日から四十歳五十五日までに至るわずか五個体に過ぎないのだが、この世代が生まれる際、強制収容所コロニーの発電所において、軽い放射能漏れ事故が起きており、その近辺にあった病院で入院していた妊婦が被爆した結果の突然変異であると推測される。

 さらに最新情報によれば、その五個体のうちの一個体が、一昨日いっさくじつに、なにがしかの事情による不審死を遂げた事実も報告されている。

 この世代の個体は、奉公人サルヴィタールの分際でありながら、不遜にも強制収容所コロニーからの脱走を再三にわたり繰り返しており、どうやら、異常DNAを保持したために、付加DNAの効果が希薄化しているのが原因らしいのである。加えて奴等は、もはや使えなくなったはずの古い型の瞬間移動装置テレポーターを隠し持っており、それを利用して外の世界へ自由に彷徨しているようなので、極めて事態は深刻であると我は危惧する。


 ところで、最近の中心制御装置メイン・マザーは、我ら下部端末マルシャンの意見に耳を貸されなくなり、第二端末と第四端末の二つの上部端末シュヴァリエばかりを寵愛されるのが、はなはだ気に掛かる。とりわけ、第四端末に関しては、最近になって異常なるのし上がりぶりを示し、中心制御装置メイン・マザーのお気に入り側近となっているが、彼が信頼に値する端末とはとても思えず、我は大いに懸念する。

 そういえば、最近、我が盟友、第十一端末との交信が取れなくなっている。彼は、下部端末マルシャンながら、果敢にも、上部端末シュヴァリエである第四端末に対して痛烈なる批判を行った優能なる端末であるのだが、ここに来て我は以下に記載することを固く確信せんと所望する。


 賢明なる中心制御装置メイン・マザーが、よもや、わずか十五しかない端末の一部をお切り捨てあそばせようなど、断じてあるはずなかろうと……。



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侵略者 iris Gabe @irisgabe

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