第2部 グリンリーフ博士の報告書
我々
ナイン・ステイト島には、百名程度の島民が生き残っており、当時の生活をそのまま営んでいたのである。
彼らの硫化水素ガスに対する耐久力は驚異的で、体力測定や血液検査の結果報告によれば、我々の想像を遥かに絶する数値を叩き出している。
巨大地震ハーデスが起こったのは二十一世紀。それから三百年の時を経た現在でも、ナイン・ステイト島では活火山群が絶え間なく噴火を繰り返し、硫化水素ガスが深く立ち込め、さらには、地震災害当時の原子力施設の崩壊に伴う大量の放射能汚染も未だ残存し、防護服を着用せねば、三十秒で死を迎えてしまう、すこぶる危険な
しかし当時、この極限状態に取り残された少数の島民たちは、劇的な進化を遂げることで、劣悪な環境にも対応できる強靭な肉体を勝ち得たのである。実際に、彼らは、なんの防護服も着けずに、この島で平然と暮らしていた。
生物学的な見解に立てば、わずか三百年程度の進化で、個体に顕著な肉体的変化が起こることなど、まずは考えられぬわけだが、このナイン・ステイト島に限っていえば、放射能汚染物質が、彼らの進化を常識の範囲外まで大きく促進させたのではないかと我々は独自に推測している。これについては、まさに人体の神秘としか形容のしようがない。
さらに詳しく調査を進めると、島民たちには奇妙な共通の身体的特徴が存在することが判明した。『鼻』が異様に肥大化しているのだ。まるで、テングザルのごとき、顔の半分をもおおってしまう醜いその鼻は、ガスマスクと同等の働きをしているのではないかと、我々は考えている。
残念ながら、今回の探索で我々はとうとい犠牲者を出してしまった。トム・リプレー隊員が、島の少年から襲撃を受け、ガスマスクを奪われた末に、空気中にただよう硫化水素ガスによる中毒で、絶命してしまったのである。未開地区の探検ゆえもっと注意していなければいけなかったのだが、ちょっとした油断を突かれてしまう形となった。
隊員のこれまでの活躍は目覚ましく、まことに遺憾なことである。まさに、『三百年という膨大な時間』が引き起こした小さな悲劇、としか、たとえのしようがない。島民たちと少しずつコミュニケーションも取れるようになってきて、いよいよ本格的な調査に入る段階であっただけに、この結末は我々にとってあまりにも大きな痛手であった。
所詮、未開の島の原住民など、我々知的生命体とは異なる、野蛮で下等な生命体に過ぎぬということだ。せっかく、我々の仲間として
話は変わるが、我々は若手研究員を緊急に募集している。勇気と夢を抱いた探検家を――。
我々、探検隊員はみなそろって今年四十となる。厳しい調査を進めるためには、もはや体力的に限界である。それに、ナイン・ステイト島の島民たちは、我々よりも身体がひとまわりも大きくて、まともな腕力では、とてもやつらにはかなわない。同じ人間であるはずなのに、どうしてこうまで差が出来てしまったのか。我々の体力が落ちたのか、はたまた、限界環境で暮らす彼らの体力が異常に向上したのだろうか。
思うに、この三百年の間で、
それにしても、なぜ、
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