侵略者
iris Gabe
第1部 ある少年の告白
僕は、あいつらを信じない。絶対に――。
『突如出没した親愛なる者』と大人たちが呼んでいるあいつらは、僕らの島へある日こつ然と姿をあらわした。見たこともないピカピカとひかる白い服で全身をおおっているけど、僕らと同じように二本足で歩くし、てっぺんに無表情な顔が乗っかっていて、そこには目や耳もちゃんと付いているから、それで見たり、聞いたりすることだってできるみたいだ。そういってしまえば、僕らとおんなじ人間じゃないかと、思うかもしれないけど、絶対にそうじゃない。あいつらは、僕らとは全然違った生き物だ。
大人たちは、そろいもそろってあいつらを仲間に加えようとしている。理由は簡単さ。あいつらは僕らの欲しいものをたくさん持っている。
あいつらも、僕らと仲良くしたがっている。でも、それは見せかけで、本当の目的は僕らの力を見極めようとしているんだ。もちろん、腕力で僕らに太刀打ちできないことは、さすがにあいつらだって知っている。あいつらの身体能力なんて、所詮は子供の僕にすら劣るくらいなものなのさ。
そもそも、あいつらが使っている言葉が、僕にはさっぱり分からない。それに、どこから食べ物を調達しているんだろう。どうせ、僕らの畑からこっそりと盗んでいるのだろうけどね。
そうだよ。あいつらはきっと、宇宙からやって来た
あいつらは男女の産み分けができる妙な薬を持っている。だから、長老たちはそろいもそろって、みんな騙されてしまった。
僕は、今年十六になるから、そろそろ結婚をしなければならない。でも、今、この島に適齢期の娘なんて誰もいないから、十一歳のマルジュが十三になった時に、僕らは強制的に結婚させられることに、もう決まっている。島の掟おきてによれば、男女は十八までに結婚をして、最終的に子供を二人までもうけなければならない。もしも結婚をしなかったり、三人目の子供が産まれたりすれば、村の秩序を乱す異端者とみなされて、僕は殺されてしまうんだ。
ただ、今の子供たちは、男児が多くなっていて、女児の需要が高まっている。男女を産み分けられるあいつらの薬は、実際に僕らには必要なものなんだ。
そういえば、あいつらはときどきいなくなってしまう。いったい、どこに隠れているのだろう? 大人たちはうわさで、海の向こうにいったん行ってから、また戻ってくるのだろうと説明していた。僕らは海の向こうへなんて絶対に行かない。なぜなら、僕らにとって海は近づいてはならない『禁断の場所』だからだ。でも、大昔のご先祖様は、大きな木の固まりを浮かべて、海の向こうへ行ったという英雄伝説を、僕は子供の頃にちょっとだけ聞いたことがある。
それはついこの前のことだった。あいつらが断りもなく神さまの洞窟へ忍び込んで、なにやら荒らしているのを、僕ははっきりと目撃した。もう、ゆるせない。
僕は勇気をふりしぼって行動に出た。あいつら三人のうち、一人が油断したところを狙いすまして、後ろから跳びかかり、あの気味の悪い
思った通りだ……。あいつらの無表情な顔は、仮面だった――。
仮面を失ったそいつは、慌てて顔を手でおおい隠したが、しばらくすると、地面にはいつくばって、もがき始めたんだ。助けを求めてなにやら不気味な言葉をわめき散らしていたようだけど、やがて、仰向けになって、そのまま動かなくなった。それは『三十秒というわずかな時間』だった。
でも僕がなによりも驚いたのは、そいつの顔だった。
そいつには、『鼻』がなかったんだ――。
いや、正確にいうと、あることはあるのだけど、あまりにちっちゃくて貧弱だから、最初は僕にはそれが鼻だとは分からなかったんだよね。あんなちゃちな鼻孔から空気を吸っていたのかと思うと、僕はぞっとした……。
仲間が死んだのを知るや、残った二人は飛ぶように消えてしまった。それ以来、あいつらは姿を現わしていない。
あいつらはいったい何者だったのだろう? まったく謎だらけだ……。
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