花と別れ

 1月18日センター試験当日。僕の学校は強制的にセンターを受けさせられるので毎年3年生全員がバスで行くことになっている。朝6時半集合、不思議と眠気はなかった。僕は国公立にいくつもりは無かった(ただ先生に言われ受けることになっている)ので緊張もほとんどない。なぜ良い大学に行かなければならないのかという問いへの結論は出ていなかったけれど周りがあたりまえのように少しでも良い大学を目指しているので僕も僕なりに頑張りはした。損はしないし。 同調バッカ


 バスの中で僕は目を閉じていた。テスト中に眠くなるのは嫌だったし、目を開けていたくなかったからだ。彼女はバスのどの辺に乗っているのだろう?緊張しているのだろうか?僕は彼女が緊張しているところを想像してみたが出来なかった。まず笑っているところでさえを見たことがない気がする。彼女がクラスの中心にいるような女の子だったらもっと色んな表情を見れたかもしれないなと思った。○○君おはよう!って話しかけてくれるような。そんな彼女に惹かれていたかは別として。 Delusion


 センター試験は案の定惨敗だった。先生に北海道のそんなに偏差値の高くない国立を勧められた。詐欺師やセールスマンのような洗練された口調ではなく、それは宗教の勧誘のようだった。彼は自分の言っていることが絶対に正しいと信じていた。僕はそこを受けると言った。僕の大学受験の結果は滑り止めではない大学に合格だった。悪くないな、こんなもんだろう。 妥協の肯定


 3月1日、卒業式。僕はこの学校に特に思い入れはない、むしろ嫌いだった。卒業式後の教室で先生の話を聞く。話は最後の最後まで国公立の受験についてだった。それについてあーだこーだと不満を言う者がいた。泣いている者もいた。僕も卒業式で泣ける人生を歩みたかったなと思った。 三者三様


 僕と彼女は帰りの電車で同じ車両に乗った。昼間なので他に人はほとんどいなかった。彼女は僕の向かいの席に座った。とても静かだった。彼女がどんなに小さな声で話しても僕はそれを聞くことが出来るだろう。差し込む日差しが僕の体を火照らせた。胸の鼓動はクライマックスへ向かう映画の音楽のように速く、そして大きくないっていく。彼女は次の駅で降りる。色ない白い世界で僕は今、彼女と生きている。あるのは醜いリズムの心臓だけ。

 電車の速度がだんだん落ちていくのを感じる。

 電車が止まる。


「 」


 世界の色が元に戻った時、彼女と僕は違う世界を生きていた。 さよなら


 僕のとった行動が僕にとって正しいかどうかなんて分からない。後でとても後悔するかもしれない。先の事なんて基本的には分からないのだ。


 今の僕に分かることは彼女と会うことはもうないということ。

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君の声を聞くには遠すぎるし、君を見つめるには近すぎる にこ @2niko5

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