教室と花

 8時20分、僕は半分ほど席の埋まっている教室に荷物を置きトイレに行く。教室独特の色んな絵の具が混じりあって淀んだような空気が僕はたまらなく嫌いだった。そんな所に居るくらいなら芳香剤の匂いがきつい小汚いトイレにいる方がまだ好きだった。ただずっとトイレにいる訳にもいかず用を足して教室に戻る。僕の席は廊下側の1番後ろ、彼女の席は真ん中の列の1番後ろ。僕らのクラスには受験生などという理由で席替えがないので2月の自由登校までずっと同じ席らしい。8時30分、担任が来る。50くらいで歳の割には少しがっしりとした体型の禿げたおじさんだ。何故かいつもSHRに5分早く来る。 馬鹿溜まり


 受験生の時間の流れはとてつもなく早い。おそらく毎日同じことの繰り返しだからだろう。起床、学校、勉強、就寝、起床、学校、勉強、就寝……先週と今週の違いを聞かれたら僕は間違いなく答えられない。まあ、そんな事を聞かれるはずがないが。気がつけばセンターまで3ヶ月ほどになって今までの人生でそんな事はなかったのだけど焦りを感じている。今まで通り何とかなるだろうと楽観視するには人生におけるダメージが大き過ぎるからだろうか?良い大学に行き、良い仕事につく、それが僕にとって幸せなのだろうか?お金が全てなのか?僕は何のために生きているのか? Unknown


 彼女はいつもマスクをしていた。少し猫背で髪を後ろで縛っている。ここではないどこか遠くを感じているような顔に僕は惹かれた。授業中彼女を僕の視界に入れておくのはとても困難だった。彼女の席が2列挟んだ真横だからだ。僕がもっと前の席なら諦めがつくのだけれど。授業中に顔を90度横に向けなければならない場合なんて来るはずもなく、傍から見れば急に横を向いた変なヤツと思われるだろう。僕はなるべく自然に横を向くと、彼女は前の黒板を退屈そうな目で見ている。たまたま横を向いて目が合う、なんてことが起こるはずもなく。 Profile

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