豌豆飯と豆腐と小松菜の味噌汁
-1-
コロッケを作った翌日。
「なあ、智也」
「なに?」
宿題は前回の
兄貴分っつーよりは親のような感覚でそんな従兄弟を見守りつつ、そのレポートの内容がより厚くなる豆知識を披露しようとする俺。
「そういえば、よう」
「ん? ん~」
レポートの方に熱中しているからか、智也の反応は鈍い。きったない字を筆圧高めに原稿用紙に躍らせるのを止めず、顔も上げやしねえ。
二度のイントネーションの違う『ん』で、左右に頭が揺れたのが唯一の反応だ。
「戦中戦後の食事がイモばっかりだった理由、知りたくないか?」
コイツめ、と、思いつつ、俺が喋りたいんだ喋らせろ、と、暗ににおわせる。だが――。
智也からは相変わらず、日本語じゃなくて「ん」の音程の変化が返ってくるだけ。こりゃ政治家とか官僚にはなれそうもないな、俺も智也も。
こちとら折角調べた
「爺さんとかが好きだった将軍の出てくる時代劇あるだろ? まあ、あれで有名な徳川吉宗が青木昆陽に命じて救荒作物として普及させたらしいんだが……」
取りあえず、そもそものきっかけが曾祖父さんだったので、爺さんが好きだった時代劇に絡めて話し始めてみる。が、相変わらず智也は聞いているのか聞いていないのか解らない反応だったので、気にせずに喋ることにした。
「その結果として、江戸で焼き芋が人気になって、稼げる商売になったってのは面白いよな。まあ、金が回るのはいい事なんだろうが。んで、近代まで結構な稼ぎになる商売だったらしいが、第一次世界大戦後の大正バブルで洋菓子に押されて一時衰退」
資料によれば、当時は米とかの穀類よりもイモは安価で、腹も膨れる事から大人気となったが、より安価な工場生産の洋菓子に台頭されたってのは面白い。
逆に、江戸時代とか第一次世界大戦後の日本の好景気より前は、甘味を得る手段が素材そのものの甘さに依存してたって事で、甘味への欲求は代わっていないのかもしれない。
ふと息継ぎのついでに智也へ視線を向けると、文字を書く手が遅くなっている。俺の話に合わせて、頭と耳と視線が動いている。解り易い男だよな、コイツも。
……将来、絶対苦労するぞ。
「その後、大学芋とか壺焼きイモってのが流行るけど、戦争でイモが統制品になっちまった」
お手上げのジェスチャーをすれば、すっかり宿題から顔を上げた智也に続きをねだるような視線を向けられた。
レポートは完成していないようだったけど……、ま、まあ、大丈夫だ。俺の話を聞いてからの方が、内容が濃くなる。だから、邪魔なんてしていないぞ、お兄さんは。
完全に手を止めた智也に、若干の罪悪感を抱きはしたが、キラキラした眼差しを向けられれば俺の弁にも熱が入る。
「第二次世界大戦中、食うものにさえ困る状況になった。それで当時の政府が第2次食糧増産対策要綱っていうのを定めて、その中に藷類ノ画期的増産ってのがあったんだ。これは、サツマイモの作付けを増やしつつ、ジャガイモに関しては全国で生産するために北海道から種芋を輸送するって計画だった」
戦時中の政府は機能不全だったイメージがあるけど、調べてみれば結構色々な手を打っていたようだ。もっとも、前提としてその時の日本は経済力も技術力も低く、その打てる手が限られていたんだけど。
ただ――。
政策の実効性、か。
科学技術や経済は当時と比べ物にならなくなっている現代だけど……政治家の質は落ちてるんだから笑えない。このコロナ禍に対して所詮はお願いベースだし、減った増えたの話ばっかりで病床状況とか治療方法とかもっとやるべきことがあるのに、してるのは経済再開の微妙なキャンペーン、んで政治家は会食に放言三昧ときた。政治家風情に出来るのは、税金の再分配なんだから、そこだけはきちんとしろと言いたい。……俺みたいな一般庶民が言った所で、結局は馬耳東風なんだろうけどさ。
「まあ、空襲されて交通網もズタズタだったし、計画は達成されたとは言えない状況の上、結局は戦争にも負けちまうんだがな。ただ、その時のサツマイモとジャガイモは戦後の食糧難を少しは助けてくれたってことらしい」
サツマイモはイモの部分だけじゃなく、茎や葉も食えるらしいし、コスパがかなり良かったんだろう。前の残飯シチューを調べた時に知っているが、当時は残飯でも貴重な食糧だったんだしな。
既に全国あちこちに植えられてて、しかも
俺/ボク達の軍隊料理法 一条 灯夜 @touya-itijyou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。俺/ボク達の軍隊料理法の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます