第1話 プロローグ2

 匂いが好き。足音が好き。

 名前なんてよくわからないけれど、呼ばれて振り向くと目が合うから好き。


 とっても安心できるから、いつでもあなたの傍らにいたい。

 だからどこにも行かないで。ずっと側にいてね。そう思っていたのに。


 ホント、何が起こるかわからない。ごめんね、勝手に外に飛び出して。

 茂みに同じくらいの子を見つけたから、ちょっとお話しようとしただけなのに。それだけだったのに、不意に聞こえた大きな音と、大きな影にすくんじゃったの。


 あの時はよくわからなかったけれど、今思うとあれ、車だったんだね。


 うん、先生が言っていること、よくわかる。右みて左みて、もう一度右みて。だからもう二度と道路になんて飛び出さないよ。他の子にだっていつも注意しているの。ホントだよ。


 でもあの時は失敗しちゃった。


 それでもね、とっても嬉しかったんだ。迎えに来てくれたんだって、嬉しかったの。気がついた時にはまた匂いがしたんだもん。


 もう声も出なかったけど、目も見えなかったけど、あなたの匂いと温もりだけはわかったから。


 尻尾を振って返事したの。


 泣かないでって、ゆらゆらと。

 悲しまないでって、ゆらゆらと。


 伝わったかな。伝わっていたらいいな。

 あなたに合えて心から幸せだったの。本当だよ。

 

 まるで夢の中のよう。あの時だってじゅうぶん幸せだったけど。

 もう一度あなたに出会えて、夢の続きを見る事ができて。

 環奈かんなは今、とってもとっても幸せなの。

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