第2話 勇者殺し

 トージは、依頼者に連れられて、とある古城が一望できる高台にいた。

 隣には今回の依頼者である王国の騎士長が並んで

「現在、先行させたアサシン部隊によって雑魚が一掃されているでしょう」


 トージは、遠見の魔導具で古城を見ると、門番や見張りをしている山賊くずれ達が次々と、王国のアサシン部隊によってステルスキルされているのを見た。

 暗い物陰から忍びより、背後から首や背中を刺して仕留める動きは、まさにアサシンと言える手際の良さだ。


 トージは、遠見の魔導具を外して

「今回の獲物の情報は?」


 騎士長が

「はい。遠方の国で勇者になり、その国で発生した魔王の始末をしましたが…。その後、暴走してこの国へ流れ、その間に3つの集落、街を2つ襲撃して、殺人、強姦、略奪を繰り返しました。

 殺された人数は百名近くになり、強姦殺人は報告だけでも数十名に…。

 略奪された金品の被害総額は相当なモノです。

 勇者を生んだ国も…殺処分してよろしいと。勇者連名も致し方なし…と」


 トージは呆れた顔で

「よくもまあ…そこまで堕ちたなぁ…」


 騎士長が

「経歴もむちゃくちゃです。勇者になった時に一緒に戦った戦士達の犠牲が数百人も出ました。力におぼれて無策に突進を繰り返す、根性論だけのバカです」


 トージが

「バカに力を持たせると、何時の世も破滅だな。行ってくる。アサシン部隊の始末が終わったようだ」

と、動き出す。


 騎士長は頭を下げ

「お気を付けて」


 トージは、始末する勇者がいる古城へ向かう。

 トージの裏の顔、勇者殺しが始まった。



 古城にいる堕ちた勇者は、部屋から出て周囲を見る。

 松明の炎だけで、誰もいない古城の広場。

 堕ちた勇者が出て来た部屋には、勇者に痛めつけられて強姦されて泣いている女性達がいた。

 堕ちた勇者の男が襲撃した村から攫ってきた娘達だ。

 弄ぶ為に誘拐して、村の人達を殺しまくったのだ。


 堕ちた勇者は、静かな周囲に警戒して剣を構える。

 女を強姦してガウン一丁の堕ちた勇者の前にトージが来る。

 トージに堕ちた勇者が

「キサマがやったのか!」


 トージは肩を解し

「オレじゃあない。ここに派遣されたアサシン部隊が始末した」


 堕ちた勇者が

「換えなんていくらでもいる。その辺に転がっている山賊やチンピラなんだからなぁ!」


 トージは堕ちた勇者に

「お前に次はない」


 堕ちた勇者が

「サンダールード」

と、幾つもの雷撃の攻撃をトージに放つ。

 

 トージは、魔法収納から、避雷針の魔導具を取り出して前に放った。

 それに雷撃が堕ちて、黒目の防護力が高いレザー生地の服に火花が当たり滑る。


 堕ちた勇者が

「クソ! 属性防具か!」

”ブリザルド”

 今度は、空中に氷結の塊を作り放つ魔法攻撃をする。


 それをトージは避けながら、次の防護魔導具を展開する。


 氷結の攻撃は、当たるとぶつかった周囲を凍結させるが、トージが展開した蜘蛛の巣のような防護魔導具の糸に当たると、そこで止まって凍結する。


 堕ちた勇者が

「クソーーー」

”フレアボルト”

 頭上に巨大な火球を形成して、そこから無数の火の玉を発射して攻撃する。


 それをトージは避けつつ、次の防護魔導具は、トンファーである。

 そのトンファーで向かって来る火球を殴ると、強烈な突風が火球を突き抜けて破壊する。


 そして、トージは堕ちた勇者に駆けつけると武器を交換する。

 柄まで刃に覆われたショートソードを両手に握る。

 堕ちた勇者も剣術で応戦する。

 

 堕ちても勇者だ。腕は立つが…トージにとっては問題ない。

 堕ちた勇者の一撃が入る前にトージは懐に入り、堕ちた勇者の右腕と右足の太ももを切る。


「ぐあああああ」と堕ちた勇者が叫ぶ。


 トージは、更に戦闘不能にしようと攻撃を繰り出すが。


「テメェに使ってやるぜ!」

と堕ちた勇者が、勇者の証であるチートを発動する。

 この勇者のチートとは、火炎魔神である。

 堕ちた勇者の背から炎の魔神が出現する。


 堕ちた勇者が切られた右腕と右足を押さえながら

「オレのチートである。この火炎魔神イフリートの炎は、どんな事をしても消せない。燃え尽きて死ねーーーー」


 火炎魔神の拳が迫る。


 この瞬間をトージは待っていた。

 トージは、堕ちた勇者を狩る者だ。

 この世界の様々な国々には、甚大な被害をもたらす魔王が発生する。

 それを倒せるのは勇者しかいない。

 勇者は、貧しい者達の中から生じる。

 勇者は、チート能力を持っている。その能力は、魔王を倒す為に存在している。

 要するに、勇者でなければ魔王は倒せないのだ。

 勇者の本分である魔王を倒せば、通常なら勇者は、何処かの貴族の娘とくっついて、平穏に暮らすのだが…少数の例外が発生する。

 己の力を過信して、このように堕ちる勇者。ダスト・ブレイバーが出る。

 このダスト・ブレイバーの始末をトージがやっている。

 その理由は…

「喰らえジャバヲック」

 トージの右腕から漆黒の獣の顎門が出現して、ダスト・ブレイバーのチート、勇者の証である特別能力を喰らう。


 トージの右腕から伸びる八つ目の漆黒の龍ジャバヲックが、今回のダスト・ブレイバーのチート、火炎魔神を喰らい尽くす。


 火炎魔神は暴れるも、その攻撃の全てがジャバヲックに喰われて、火炎魔神を平らげた。


 ダスト・ブレイバーは、愕然としてその場にへたり座り

「オレの…チートが…」


 トージが目の前に来て

「さあ、お前の終わりだ」


 ダスト・ブレイバーが

「た、頼む! 幾らでも金はやる。あそこにあるぞ!」

と、強奪した金品がある倉庫を示す。


 トージが

「それで? さっき行ったよなぁ…お前に次はない…と」

と、告げた瞬間、ダスト・ブレイバーの両腕を切り刻み


「ぎやああああああああ!」

と、ダスト・ブレイバーは叫び立ち上がるも、トージはその両足のアキレス腱を切断した。

「助けてくれ…」

と、ダスト・ブレイバーは芋虫のように地面を這いずる。


 それをトージは見詰めて

「そうやって、お前は…人殺して、女を攫って強姦して、命と財産を奪った。お前がやった事がお前に返ってきただけだ」

と、冷めた口調で告げる。

 そして、トージは柄まで刃があるショートソードをその場で捨てて、アイスピックのような剣を握り

「お前の首を切り取って持ち帰る事になっている。お前の首は、間違った勇者として永遠に勇者博物館で標本として飾られる」

と、告げて後頭部から延髄を指して潰して、呼吸器系の神経を潰した。

 

 ダスト・ブレイバーは、苦しさで顔が引き攣り地獄を味わいながら死んでいく。


 トージが

「最後は、お前が犯した罪を体感して死ね」


 一分も立たない内に、ダスト・ブレイバーは痙攣して、呼吸器系神経を潰された事による窒息と激痛で、地獄を見たような絶望の顔のまま表情が固まって死んだ。


 死亡をトージは確認する。脈、心拍、瞳孔の反応無し。そして、魔導収納から首を切断して保管するケースを取り出し、頭部に被せると…自動で首を切断してケースに収めて死体保管用のホルマリン液で満たす。


 トージは抱えると、周囲に待機していたアサシン部隊が姿を見せ

「お疲れさまです。後は」

と、トージの抱えた首保管ケースを持つ。


 トージは、頷き

「後始末は…頼む」


「はい」とアサシンは頷き、次に待機していた騎士団が入って被害者を保護していく。


 トージは、懐からハーブの葉巻を取り出して口に咥えて、吹かすと、その背に保護された強姦被害者の女性が

「ありがとうございます。父さんと母さんの仇を取ってくれて…」

と、殴られたアザがある顔に涙を流している。


 トージが近づき

「こんな事に負けるなよ」

と、声を掛けて去った。


 トージは、勇者のチートを喰らうジャバヲックという魔神龍と融合している。

 トージの表は、魔物を狩るハンター。裏はダスト・ブレイバーを狩るハンターである。

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喰らえ! ジャバヲック! オレは堕ちた勇者を狩る者 赤地 鎌 @akatikama

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