002

そよ風が青年の頬を撫でる。

ゲートを抜けた先はどこかの平原だったようで、遠目に人工物も見える。

頭上には一つの恒星が光り輝いていて、手を透かしてみる。


「ここは眩しいな。あれは所謂太陽って奴、なのか?」


よく見ると少し違和感がある。

あれ、張りぼての恒星だな。

ああ、そうか、生まれたての世界って言ってたな。

確かにそれはそうなのかもしれないが、どっちかと言うと生まれる前のお試しの世界だな、ここは。

宇宙があまりにも狭すぎる。

それに安定しすぎだ。

膨張も収縮も感じられない。

一つの宇宙に一つの惑星、張りぼての星空。


「なんにせよやることは変わらない。」


青年は体内に内包する世界とこの世界を接続し、科学技術の終着点である法則の書き換えを始める。

分割された思考の内の一つの視界には拡張現実の様にこの世界の情報が表示される。


「ここは、法則がいくつも重なってる。まるでファンタジーな世界だな。限定的な音や電磁波に反応する法則なんて恣意的過ぎる。」


法則書き換え技術を見出した時点で想定されたケースではあるが、特定生体から発せられる音や電磁波、人類で言えば声や脳波に反応する法則は自然発生するとは考えずらい。

そして生まれたての世界で終着点技術が生まれるとも考えにくい。


「分裂した化身の数人か、もしくは全員が遊んでるな、これは。」


特定生体に特権を与える法則の創造、それも発生初期ともなると、神と称しても過言ではない世界の化身でなければ出来ない所業だ。

・・だが、化身に人格を与えたのは人類だ。

化身は本来発達した文明から自我を得て現界すると考えられている。

ここの化身はどうやって人格を得た?

居ることには居ると聞いたときに疑問を持つべきだったか・・。

生まれたての程度がここまでとは思わなかった。


「まあ、なんでもいいか。分裂してるなら猶更。」


青年は何でもなかったという様に頭を振り、音もなく浮き上がり、そのまま遠目に見えた人工物向かって飛び始めた。

久々に目にする自然をその両眼に焼き付けながら風圧を楽しんでいた。


なんか、こういうのもいいな。宇宙は狭いがこの惑星はそれなりにデカいし、生体反応も多い。

ここじゃ思考直通パス技術とかも無いだろうし、友情は会話から始まる。


「当面の目標は友達100人、だな。」


流れるように進む風景を楽しみながら青年はそう呟いた。

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最後の人類は異世界に誘われた アークアリス @902292

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