第3話 2019年以知記の重大ニュース「タクシー事件」

またしてもご無沙汰してしまいました、O(オー)でございます。

マトン事件やタヌキ事件など、笑いには事欠かない友人Pと私の2019年の重大ニュースを聞いてください。



それは、2019年の11月の終わりの頃でした。


同じ11月の初めにPが前々から治療を行っている眩暈の症状がきつくなったことに加え、仕事の繁忙期でもあったために救急車に乗ってしまった、病み上がりのPの完全復活を祝って、画材の購入や美味しいランチなど、休憩も考慮しながらのお出かけをしようと、朝早くから私の運転で出かけておりました。

私たちが出発した時間は、ちょうど通勤ラッシュの時間でもあったので、渋滞を避けるために途中でコーヒーショップで朝ご飯を食べたりと、本当にのんびりと移動しておりました。


渋滞がひどいと、どうしても起きてしまうのが事故ですよね・・・この日も幹線道路で事故が起きているという、電光掲示板のお知らせを見て、大回りして渋滞を回避することにしました。


どういうルートかは知っているけど、今まで走ったことのない場所を通り過ぎるため、進行方向や車線変更などに気を付けて運転しつつ、途中のコンビニで探していた雑誌がないか見てみたりと、休日にしかできないような、のんびりとしたドライブをしておりました。


なぜ、朝早くにのんびりドライブをしていたかと言いますと、私Oには黄砂のアレルギーがあり、この日の前日も黄砂がたくさん飛来していたため、アレルギー薬を飲んでからの運転となったからなのです。

もちろん、普段から飲んでも副作用なんてないし、私にとってよく効くアレルギー薬ではあったのですが、あまり黄砂の飛来が多いと目薬やうがいをすることがあるため、お出かけそのものをやめて引き返してもいいようにと、Pが提案してくれたからでした。


病み上がりなのはPなのに、どこまでも人に優しいP・・・そんなPに嫌われる人なんているのかしら(これがいるからビックリなんですけどね)


やがて、私がもともと走行しようとしていた幹線道路に合流すべく、徐々に混雑してくる道をのんびり走っていると、私の前に一台のタクシーが車線変更して入ってきました。


そのタクシーを運転されていたドライバーさんのお年の頃は50歳くらいでしょうか、少し白髪の見える、短くさっぱりと切りそろえられた、とても清潔感のある男性が運転しておられました。


私もここの右折レーン、ちょっとわかりにくいなと思ってたんだよね、なんて話をしながら信号待ちをし、何度目かの青信号で大きな交差点を右折しようとした、その時でした。


私たちの前にいるタクシーが、幹線道路でひとつ左側の車線へ移動しながら右折し、我々はそのまま右側を走行しなければならなかったので、同じ右折でも少し角度が変わったその時に、事件が起きました。


なんと、タクシーを運転しておられたはずの男性が、タクシーの中から消えてしまっているのです!!

それなのに、タクシーは滑らかに車線変更を終えて、適切な速度で走行しているのです!!



「ちょ!P見てよ!」


「見てる!知ってる!見えてる!いや見えてないけど見えてる!いやでも見えてない!」



私の車の中の会話は軽いパニック状態でハチャメチャなことになってしまいました。


どうしても気になる、隣を走る無人タクシー・・・・・・とは言え、私自身が今運転をしているために、ひとつ左側の車線を走行するタクシーを凝視するわけにはいかなかったのですが、ちらちらと何度見ても、やはりタクシードライバーさんが忽然と消えてしまい、無人のタクシーが大きな道路を滑らかに走っているのです!!



これは一体・・・私の目の前で一体なにが起きているのか、さっぱりわかりませんでした。



「なんでやろう?なんでこんなことに・・・・・・P?どうしたん?」



さっきまで私と一緒に驚いていたPが、いきなり黙りこくって難しい顔をしておりました。



いや待って!この状況で真剣な顔して考え事しながら沈黙されたら怖いから!!


P!お願いやから何かしゃべって!!


マトン事件の時に黙りこくってしまったことはホンマに悪いと思ってるから!!反省してるから!!


だから何かしゃべってよーっ!!



右折をしたドライバーさんが車内から忽然と消え、Pが沈黙するまでそんなに長い時間ではなかったはずです。

しかし、私にはとても長い時間のように感じました。


そして、Pにしては珍しく考え込む時間が長いので、沈黙に耐えきれず、声をかけることにしたのです。



「・・・ねぇ?P?」


「わかった!そういうことか!!」


「うわぁぁぁぁえええぇぇぁぁ!?」



急に大きな声を出した友人Pに驚き、私は思わず奇声を上げてしまいました。



「あっ!ごめん!えぇっともう大丈夫たからね?」


「へ?何が大丈夫なん?」


「ほら、もう見えるはずだよ?」



Pにそう言われ、ちらっと横目でタクシーを見ると、なんとドライバーさんが乗っておられるではないですか!



「えぇぇぇぇぇぇぇ!?なんで!?どういうこと!?」



私には、さっぱりわかりませんでした。


なぜ、ドライバーさんが消えてしまったのか?

なぜ、Pにはドライバーさんが見えるタイミングがわかったのか?



「Oちゃんね、黄砂がひどいから洗車できないって言ってたやん?」


「うん、黄砂がついたら布で拭いてしまったら傷になるねん。」


「でも、運転に差し障りない程度にうっすらついてるだけやったから、そのまま乗ることにして、万が一の洗車も考えてるやん?」


「そうやねん、もしかしたら反射して見えなくなったら困るから、その場合はすぐ停まらせてもらうって話になってるよね。」



西日本にお住まいの皆さまならばよくご存じかと思いますが、黄砂は一度付着するとなかなかとれません。


車のガラスとなると、拭けばいいやと思って雑巾などで拭いてしまうと、黄砂の粒子で車体を傷つけてしまう恐れがあるので、ガソリンスタンドなどによくある、泡たっぷりの手洗い洗車にしないとダメだと私の家族に言われているため、この日も視界に気を付けて運転しておりました。



「でね、車のフロントガラスってちょっと斜めになってるでしょ?」


「うん、直角ではないよね?」


「そのフロントガラスに黄砂がうっすらついちゃってるのと、この時期のこの時間の朝日の差し込む角度と、タクシーとの距離と角度から計算したら、確かに見えなくなるんだよね。でも暗算で出したから、細かいところは間違ってるかもしれないけど、ドライバーさんが見え始めた距離がだいたい予想通りだったから、概ね間違ってないと思うんだ!」


「・・・・・・はい?」



恐らく、この時の私の「はい?」の言い方は、杉〇警部の「はい?」というセリフにとても似ていたことでしょう。

そんな私の相棒の様子を、運転しながら視界の端っこで確かめると、先ほどまでの沈黙が嘘のような、Pの喜色満面な表情でした。

それは、Pが何らかの計算や想定していたことが、実際の出来事とぴったり合っていたことを喜んでいる時にいつも見る表情で、先ほどまでビビりまくっていた私は唖然としました。


Pは私と違い、数学や物理もできるのは知っていました。

でも、ビビっていた私にとっては長い時間とはいえ、ほんの数秒でそこまで計算していたとは・・・!!


状況が飲み込めてくると、人間は不思議と落ち着きを取り戻すものです。

それと同時に、先ほどまでビビっていた自分が恥ずかしく情けなくなるものです。

この時の私も、例外なく同じようになりました。


そして、Pに対してようやく伝えられたまともな言葉が、



「アンタは天〇の城ラ〇ュタに出てくる、飛行石の指し示す方向を船長に説明するシーンのシ〇タか!!」



という、元ネタがわからないと笑えないものでした。


幸い、Pはこのネタがよくわかってくれていたので、飲んでいたお茶を吹き出しそうになりながら笑ってくれました。



そうこうしているうちに、タクシーと私たちの進行方向が離れていき、タクシーの姿は見えなくなりました。

私たちはその後、渋滞している幹線道路を少しだけ走行したりしながら、無事に目的地の画材屋さんに到着することができました。


楽しそうに画材を選ぶPを見て、元気になってよかったなと思いつつ、そりゃあれだけ短い時間であそこまで計算して「人が消える」現象を私に説明できちゃうくらいだから、Pの考える話にはブレがないし設定もストーリーも緻密になるわなと、一人納得しておりました。


そんな私の大事な相棒のシー〇ならぬ、Pの体調には本当に気を付けて見ていかなきゃ。

だって、Pは私の大事な大事な大親友ですから!





おもしろエピソードを、投稿風に。

「タクシー事件」


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