第2話 2018年以知記の重大ニュース「タヌキ(仮)狂騒曲」」
皆さま、ご無沙汰しております。
以前、マトン事件に遭遇いたしました、O(オー)でございます。
2019年も始まって、すでに二月。
節分もとっくに過ぎてしまい、春一番の便りも届いてまいりました。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。
今ごろになって、去年の重大ニュースなんてどこの時代遅れかと言われるかもしれません。
しかし、よろしければぜひとも、皆さまにお聞きいただきたいと思いまして、遅筆ながら文章をしたためさせていただいております。
それは、昨年2018年の春、満開だったソメイヨシノが葉桜になって間もないころのことでございました。
春の陽気に誘われ、分厚いダウンコートや冬のお布団をしまおうとしていた友人P(別称・平あげは)を手伝うため、この日は朝早くから友人Pの自宅にお邪魔させてもらっておりました。
いつもお庭を悠々自適に歩く、友人P家のワンコのシベリアンハスキー。
ワンコをこれでもかと甘やかす存在である私が通ると、必ずと言っていいほどワンコは私に
「どっか撫でていってよ~」
と言わんばかりに近寄ってくるのに、どうしたことでしょう。
明らかにテンションが高くなっている様子が見て取れたのです。
ワンコはお庭の木に前足をかけ、どうやら上を気にしている様子。
そこは友人Pのお部屋のあるあたりだったのですが、友人Pやご家族の姿はなかったので、きっとお部屋にいるであろう友人Pを待っているのだなと思い込んでしまいました。
この日は、友人Pがダウンコートをホームクリーニングできる洗剤を持っているとのことで、私のコートも一緒に洗わせてもらうことになっていたので、友人Pが準備してくれている間に、私はお布団を干しておこうと、二階のベランダに上がりました。
少しでも長い時間、日光があたるとお布団がフカフカになって気持ちが良いですよね。
晴れた日が続いていたこともあり、友人Pが大好きなフカフカのお布団になるようにと、急いでベランダの手すりについた砂ぼこりを拭きとってしまおうとした時でございました。
ベランダの角にふと見えた、大きな毛玉。
私は何の疑問も持たずに、声をかけてしまいました。
「なんでこんなとこに上がってんの、怒られちゃうよ?」
そう、私はその毛玉の色合いから、友人P家のシベリアンハスキーだと判断してしまったのです。
しかし、その後すぐに異変に気が付きました。
シベリアンハスキーにしては小さいのです。
それでもまだ、私は自分の目の前にいるのがシベリアンハスキーだと思っていたため、
「勝手におうちの中に入ってきたから、怒られると思ってそこで丸まってるんでしょ?じゃあどうして二階まで上がってきちゃったのよ~?」
などと、呑気なことを言っていたのでございました。
こんなに声をかけたのに、それでも動かない、私の目の前にある大きな毛玉。
ここまでくると、さすがにこの鈍感な私でも、自分が何か思い違いをしているのではないかと考え始めました。
ベランダで今、私が見ている光景の違和感は、私が思っているものと何かが違う。
けれど、その違和感が何なのか判断できず、焦り始めておりました。
すると。
毛玉からひょっこり、顔が見えたのでございます!!
「たっ、たっ・・・・・・タヌキぃぃぃぃいい!?なんでこんなところにタヌキがいるのぉぉおおおおぉぉ!!なんでPの家にタヌキがいるのよぉぉ~!!」
焦った私は、勢いよく窓を閉め、大きな毛玉ことタヌキが入ってこれないようにしたことを確認してから、部屋を飛び出しました。
そして、一階にいるであろう友人Pを大きな声で呼んだのです。
「二階のベランダにタヌキがいるの!!」
すると、友人Pと一緒にいたPママも部屋から出てきて、
「え?」
「お布団干そうと思ったら、ベランダの隅っこにタヌキがいるの!!」
「タヌキ?」
この時、二人は驚くよりも訝しんでいる表情でした。
私が突然、突拍子もないことを言い出したために、ベランダで起きていることを信じてもらえてないのだと思って、もう一度説明しようとしましたが、それよりも先に友人Pが声を出しました。
「二階にタヌキ?どうやって登ったの?」
「わかんないけど、タヌキがいるの!」
「Oちゃん、落ち着いて。タヌキは木登りができないから、二階に上がるとなると、玄関から入って階段を上がるしかないんだよ?」
「・・・・・・え。」
じゃあ私が見たアレはなんだったの!?と、新しい謎にパニック寸前になっていた私のところへ友人Pが来てくれて、
「どこにいるの?」
と言いながら、大きな毛玉のいるところへ行こうとするのです。
私にはこの時の友人Pが、巨大な隕石から地球を守ろうとする宇宙飛行士達の映画に出てくる主人公のように見えました。
なんて頼もしいお姿なのでしょう・・・。
などと思っておりましたら、
「タヌキは木登りができないの。おそらく、いるのはアライグマだよ。」
「えっ!?」
「だって、お指の形が違うから、タヌキは木登りができなくって、アライグマは木登りができるんだよ。」
「なるほど・・・。」
さすがは友人P、動物のことにはとっても詳しいです。
そして、ベランダにいる大きな毛玉を確認してもらうと、やはりアライグマとのこと・・・。
さて、ここからが大変なのでございます。
と申しますのも、アライグマは外来種のため害獣指定を受けております。
また、狂犬病のウイルスを持っている可能性があるため、そう簡単には手出しができません。
そこにきて、オオカミに近い犬種であるシベリアンハスキーがいるため、アライグマを襲わないとも限りません。
まさに一刻を争う事態となってしまったのです。
そんな中、友人Pの判断はとても早かったのでございます。
「業者さんが来るまでどのくらい時間がかかるかわからないし、来てくれてもどうやって駆除するのかわからないから、ワンコの興奮状態が収まらないようなことになっても困るから、なんとかしてアライグマを家の外に出したいの。」
そこで、私がアライグマの苦手なもについて検索し、友人Pがワンコを家の中に入れました。
やはりアライグマに気がついているワンコ、すでに興奮状態に入りつつありましたが、ワンコの大好物を使って家の中に誘導されていきました。
検索したところ、アライグマは煙が苦手とのこと。
この間もずっとベランダで丸くなっていたので、ワンコのためにお庭でつけていた蚊取り線香をベランダまで持っていきました。
最初はジッとしているだけでしたが、私が近づけるところまで蚊取り線香をグッと寄せると、数分のうちにベランダから下に降りて行ったのです。
よし!と思ったのもつかの間。
アライグマは、玄関ドアの横にある外灯の上で丸まっていました。
ここからどうすればいいのやら、と思っていると、友人Pが外灯のそばにある犬小屋の屋根伝いに下りていけるように、家にあるものを持ち出してきて、あっという間に猫ちぐらのようなものを組み立てたのです。
そうはいっても簡易のもののため、ほうきなどを立てかけていくのが精一杯だったので、果たしてどうなるやら・・・と思っていると、今度は玄関先でつけていた蚊取り線香の煙に反応してしまったらしく、アライグマはベランダへと戻ってしまったのです。
しまった、うっかりした・・・ごめんね・・・。
自分の犯したミスの重さに反省しつつ、今度は玄関先においてあった蚊取り線香も持ってベランダにあがると、さすがに蚊取り線香2つはきつかったようで、アライグマは再び玄関横の外灯の上へ。
しかし、アライグマはどこにいるかわらないワンコいおびえているようで、なかなか動こうとしない。
かと言って、あまりアライグマのにおいを家じゅうにつけさせるわけにもいかない・・・。
すると友人Pはすかさず、
「Oちゃんごめん、アライグマがいるあたりのベランダを、何かでたたいて音を出してみて。」
との指令を出してくれました。
興奮状態にあるワンコを放ってはおけないため、私が行くのが良いだろうという判断でございます。
家族の一員であるワンコを最優先に考える、友人P。
また、興奮状態にあるワンコが多少暴れても自分が抑えるんだという、私を守る判断もしてくれたのです。
ならば、その期待に応えるしかない!
そう思った私は、急いでベランダへ戻りました。
この頃になると、部屋の中にいるワンコから、聞きなれない鳴き声がお庭にまで聞こえるようになっていました。
おそらく、アライグマはこのワンコの鳴き声にも怯えていたのでしょう。
じゃあなぜこの家を選んで入ってきたんだよ・・・。
そもそも論よりも、今はアライグマを外に逃がす方が先でございます。
私は友人Pの指示通り、二階にあったものでベランダのへりをたたき始めました。
やっぱりすぐには動かないかなぁ、これは持久戦かなぁ・・・と、アライグマとの根競べを考え始めた時でございました。
ガシャガシャガシャーーーン!!
何かが当たる時特有の大きな音がしたのです。
急いでお庭を見ると、友人Pが簡易で組み立てた、はしご替わりのほうきなどがお庭に散乱していました。
いったいどうなったかと急いで二階から降りてくると、先にお庭に出た友人Pが、
「どうやら逃げたみたいだよ。」
と、お庭を見回していました。
その後、お庭などを見てまわってもアライグマのいる気配はありませんでした。
そのかわりに、お庭にはどうやらアライグマが落下してできたらしいヘコミができていました。
しかし、アライグマは逃げていく際に外壁に「おもらし」をしていくという不始末をしてしまったため、重曹を大量に使って消毒する事態と相成りました。
簡易とはいえ、逃げ道として作った猫ちぐらならぬアライグマちぐらをなぎ倒し、さらにはちゃんと着地もできずお庭の土の上に落ち、挙句の果てにおもらしとは・・・
ドジすぎる。
そして、ようやくワンコをお庭へ。
ワンコは待ちかねたかのようにお庭に飛び出し、アライグマを探しているかのような見回りをしていましたが、しばらくすると逃げてしまったのがわかったようで、そのままお庭で番犬のような凛々しい表情で座っておりました。
日差しが強くなっていたのもあって、私も友人Pも汗だくになりつつ、ふと
「そもそも、どうしてあのアライグマはシベリアンハスキーのいる家に入ってこれたのか」
という疑問に立ち返りましたが、その答えはあっさりとわかりました。
毎朝、Pママがワンコのお散歩に出かけておられるのですが、この日はいつもと少し違う時間にお散歩に出たのだそうです。
その間に、アライグマが入ってしまったのではないか、と。
他の犬と違い、オオカミに近いシベリアンハスキーは犬特有のにおいがほとんどありません。
そのため、他のワンちゃんのいるおうちのにおいで、友人Pの家のワンコのにおいがわからなかったのではないか、という結論になったのです。
そしてアライグマが登った形跡のあった、雨水の排水管に巻き付いていた朝顔のつるを取り除く作業も完了させました。
朝顔のつるを滑り止めにしてのぼったとは・・・。
ワンコがお散歩から帰ってきて、アライグマはどんなに焦ったのでしょうね・・・。
その日の夜、事の顛末を聞いたPパパは、アライグマの写真を見ながら、
「生でアライグマを見たかったなぁ・・・。」
と、ちょっと残念そうにおっしゃっていたそうです。
アライグマは懲り懲りです・・・。
それから数日後。
私は日帰り出張のために、明け方から出発する日がございました。
まだ薄暗い中、自宅から出てきてすぐの側溝に、何かモジャモジャしたものが見えました。
何だろう?と思い、時間に余裕のあった私は近寄ってみて、どうやら気付かれていないようでしたので、しばらく観察することにしました。
が。
モジャモジャは一向に動きません。
私との距離、50センチほどしかないというのに。
寝てるのかもしれなから、そっとしておこう。
そう思って、通り過ぎようとした時です。
ガサガサガサガサ!
ドンッ!!!
なんと慌てたモジャモジャは、あろうことかわざわざ側溝のふたの方へ逃げようとして、側溝のふたで頭を打ち付けるという、まったくもってドジ極まりない行動をとったのです。
「寝ぼけてたのかな・・・ドジなアライグマ・・・・・・アライグマ!?」
そうなんです、お指がアライグマの特徴そのものだったのです!
友人P宅でのアライグマ騒動からの日数と、私の家の距離を考えると、あの時のアライグマの可能性がじゅうぶんにあったのです。
「えぇぇぇぇ・・・・・・。」
相変わらずのドジなアライグマ。
今頃どうしてるでしょうか。
どうか、人様に迷惑をかけることなく、静かにしていてほしいものです。
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