第27話 ロジャーの牧場へ

彼が眼を開けると車は止まっていた。

隣の運転席を見るとエマの笑顔が返って来た。

「おぉ、この世に戻ってきましたか」

後の席から男の声が聞こえ振り向いた彼は窮屈そうに後部座席に座るロジャーと眼が合った。

「申し訳ありませんでした、何分程、お待たせしましたか」

「30分ほどですね」

ロジャーが時計を見て答えた。

「考えを中断しないでありがとう御座います、お陰様で解決策が見つかりました」

「何の解決策ですか」

「お待たせしたのに申し訳無いのですが、お答え出来ません、お許し下さい」

<ガイア、解決策が見つかったよ>

<ありがとう、御座います、後程お聞かせ下さい>

「まぁ、貴方、凄いわ」

彼には珍しくエマを鋭い目付きで見詰めた。

<御免なさい、気を付けます>

「何だね、君達はテレパシーの能力でもあるのかね」

「ええ、あります」

「冗談はそれ位にして私の車に付いて来て下さい」

彼女が下りてロジャーが後部座席から下りて自分の車へ戻り車を発進させた。

エマが運転席に戻りシートベルトをするとロジャーの車の後を追う様に発進させた。

「貴方、御免なさい、今後は気を付けます」

「はい、ガイアの存在が知られると大変な事に成ります」

「はい、でもどうなるのですか」

「まず、何処かの政府に知られれば、我々二人は拘束されます、ガイアの力が有れば何処の国でも滅ぼす事が出来ます、ですから、間違い無く拘束されます、憲法違反だ、などと思わないで下さい、それ程の力が手に入るならば政府は何でもやります、憲法、人権など無視されます」

「地震を起こして指定した都市を壊滅させる事も国全体を壊滅させる事も可能です、竜巻を起こして一部の都市を壊滅させる事ね可能です、津波を起こして都市を壊滅させる事も可能です、範囲を指定して酸素を無くし人を殺す事も可能です、そんな事が出来る存在と交信出来る二人をどの様な国家や組織が放って置く事はあり得ません、信じられませんか、人の善意を信じますか、私は信じられません」

「・・・私は人の善意を信じたい・・・でも貴方の言う通りでしょうね、其れだけの絶大な力を得る為なら何処の政府も法も人権も無視するでしょうね」

暫く、車内が静寂に包まれた。

前を走るロジャーの車が門を入り家の前で止まった。

エマも隣に車を止め二人は後部座席の荷物を持って車を下りた。

家の中から家族が現れた。

ロジャーの妻と子供たちだった。

彼が回りを見ると少し離れた処に大きな家が見えた。

それに気が付いたロジャーが言った。

「あっちが母屋です、牧場主の兄の家族と父と母それに妹が住んでいます」

「こんにちわ、お邪魔します」

「いいえ、こちらこそ、遠い処へ申し訳ありません、妻の京子です、二人もご挨拶しなさい」

「ミドリです、よろしくお願いいたします」

「どうしたの、タクミ、ご挨拶は」

「駄目よ、お母さん、お兄ちゃんは彼女の美しさに面喰っちゃって言葉が出ないのよ」

「あら、そうなの、確かに滅多に見ない美形よね」

「外で挨拶も無いだろう、さぁ、入って、入って」

皆が家の中に入りリビングのソファーに座った。

男の子は立ったままにじっとエマを見詰めていた。

「タクミ、もういい加減にしなさい」

「駄目よ、お兄ちゃんの耳には届いていないわ、放っておきましょう」

「でも、パースで噂に成り皆が後を付けるのも解るわね」

「確かに気持ちは解るが後を付けるのはやり過ぎだろう」

「多分、ビルもお兄ちゃんと一緒になると思うなぁ~」

「そうね~、その可能性は大いにあり得るわね」

「そう、そう、申し訳無いが、二人が来る事を親父に話たら会わせろと言ってね、今夜の夕食は母屋でとなったんだ」

「大丈夫よ、爺ちゃんも祖母ちゃんも優しいから」

「そりゃ、孫には優しいさ、息子には厳しいがな」

「そうそう、何か飲み物を如何ですか」

「彼はアイス珈琲が好みです、少し甘い物が好きです、私も写って仕舞いました」

「私達は日本に住んでいましたから解りますが世界では珍しいですからね、妻も子供たちも好きですから家には何時も用意してあります、シロップもありますよ」

「お願いします、あぁ、自己紹介がまだでした・・・」

「大丈夫です、もう知っていますから、必要ありません」

「ひょっとして此処にも既にパースでの事が伝わっているのですか」

「勿論です、きっと、シドニーにも既に伝わっているでしょうね」

「うわ~、凄いですね、人の噂は千里を走る・・・ですか」

「貴方、エマさん、本当に日本語がお上手ですね、私の英語よりも上手だわ」

「私も英語より日本語の方が上手だと思っています」

「面白い方ね、エマさんて、処で彼は無口な方ね、日本人にしても珍しいわね」

「しゃべる係は私です、彼の役目は考える事です」

「良いコンビね、本当に知り合って一週間なのかしら」

「そうです、明日で一週間になりますね」

「その辺の話は母屋へ行っても聞かれるから後にしよう」

ロジャーが気を効かせてくれた。

京子がアイス珈琲を出してくれた。

長旅で喉が渇いていたので二人はグラスを口にした。

彼は一口飲むと一緒に出されたシロップを加え再度口に含み満足げに微笑むとゴクゴクと飲んだ。

エマも同様にシロップを加えて一口飲んだ後、ゴクゴクと飲んだ。

「ありがとう、美味しいです」

彼が初めて口を開いた。

京子がブルっと震えた。

「どうした、キョウコ」

ロジャーが妻を気遣った。

「彼の声を聞いた途端に震えが来ました、私だじゃ無いわ、ミドリもよ」

ロジャーが娘のミドリを見た。

「うん、何だかゾクっとした・・・でも、怖いとかの悪い感じじゃ無いの、逆に気持ち良い感じだった」

「人々に追われる訳だ、彼女は容姿で男を虜にし、彼は声で女を虜にする・・・か」

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ガイア イミドス誠一 @imidosjp

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