ゲーム内に転生できる最新RPGエロゲーを買ったものの名前が決められない件

喜多條マグロ

1話目もなにもこれで完結

20××年、フリーターでウダツのあがらない俺は、最新のVR機能を使ったクリアしているRPGエロゲーを買った。

 それはスカイリムにエロが足されたようなゲームだったが、取り扱い説明書によると、VRを付けてゲームをするとゲーム内に入れるとのことだった。代わりにそれまでの記憶を忘れ、ゲーム内で新しい生活が出来ると書いている。

 おそらくこのゲームの目新しさは、今までの忌々しい30過ぎてまでフリーター生活をしている俺にとって、全く目新しい別の人生が過ごせるという点にあるのだろう。

 俺はゲームを立ち上げながら、主人公の名前を何にするか悩んでいた。俺は普通のゲームの主人公の名前を考える時でさえ悩むタチなのだ。かと言ってゲーム内でまで現実と同じ名前を使いたくない。

 親は光輝という名前を付けてくれたが、しかし実際の俺はどうだ?人生で一度でも光り輝いた事があったか?いた、全く無い!正直言えば、俺は俺自身の名前にウンザリしている。

 しかしこれからこのゲームの主人公となる場合、恐らく親が子の名前を決めるよりよっぽど大変だろう。

 俺がゲーム内の俺の名前を決めるという事が大変な作業なのは、なんせ今から決める名前は子供という他人では無く、他ならぬ俺自身なのだから!

 それに名前を付けるという事は、ゲーム内の主人公のキャラクターの性格や動機や将来まで決定してしまう気がする。

 きっとゲーム内でも名前に似合う行動──クエストや選択肢──をとらなければならなくなるが、俺はレイプものや凌辱プレイが大好きなんだ。そんな人物が結城だの稔だの優しそうな名前はどう考えたって似合わない。かと言って勝だとか英雄だとか男らしい名前も似合わないだろう。

 かと言って太郎だとか一郎だとかありきたりな名前も付けたくない。これから世界を救い女をはべらせヒーローになる男になるんだぞ?

 うーん、ホメーロスだとかオデュッセウスだとか、外国の名前を付けるのもおかしいし...

 憧れの人物の名前を付けるのはどうだろうか?ハンフリー・ボガートや、千葉真一だとか...いや、それだと自分の人生というより、その人物の影みたいなコンプレックスを生涯持ち続ける事になるだろう。つまり俺の名前と同じく、名前負けする。

 つくづく他人に名前を付けて貰えるというのは楽だなあと思う。「産みの親より育ての親」という使い古された文句ではないが、産みの親にとって所詮子供は血が繋がっているだけというだけの他人だ。

 ところがゲーム内の名前を自分で付けた途端、その名前に対し全責任を負わなければならなくなる。その名前が他ならぬ自分自身なのだからなおさら!


 ところで、「自分の人生をもう一度繰り返しまた同じ恋人と一緒になりたいと思いますか?」だの、

「人生が5回くらいあったらいいのになあ!そしたらあたし、5回とも違う町に生まれて、5回とも違うものをお腹いっぱい食べて、5回とも違う仕事をして....

 そして5回とも、同じ人を好きになる」だの、まったく吐き気がする!

 もちろん、人生が何度も繰り返されることが無いのを分かったが上の発言だからこそ、こんなふざけたセリフを厚顔無恥にも吐けるのだろう。

 俺にもお見合いで結婚した女性がいたし、そして彼女を愛していたが、人生が5回あるとしても、二度と同じ女性と結婚したくは無い!(もし十年以上も一緒に過ごしている夫婦がいれば、二度目の人生でも同じ人間を愛されるのかと聞かれたとき、「はい、愛します」と言った奴の言葉の本音を調べたいものだ!きっとそいつは、否!と答えたら、それまでの自分の全生涯も、愛している妻と過ごした時間も、全て否定する事になるのを恐れているに違いない!

 だからこそ愛する妻を、自身の生涯も、そして結婚していた全てが無に帰す事を恐れるがため、自身も妻をも裏切らないためにも、「はい、望みます」と言わざるを得ないのだ!そう、これは誤魔化しだ!自分自身の本能を認めてしまうと、今までやってきたことから全て意味が失われる事を恐れるための誤魔化し!)

 

 もちろん俺も、それを言うことは許されないのも分かっている。何故なら、もしもある日死神のような見知らぬ人が家に来て、「次の人生では同じ恋人と一緒に居ることを望みますか?」と聞かれた場合、俺は「はい、望みます」と言うだろう。何故なら、次の人生で「いえ、望みません!」と言ったなら、さっきと同じくこれまでの妻を愛していた全生涯を否定することになるだろうから!

 しかし、もし二度目の人生があるとして、何故わざわざ見知った妻を二度目の人生でも望み愛さなければならないのか?もう30過ぎになり、妻との間も疎遠になっているというのに?

 もちろん、「次の人生では同じ恋人と一緒に居ることを望みますか?」という問いに否!と答えたら、それまでの俺の全生涯も、愛している妻と過ごした時間も、全て否定する事になるのが目に目えている。それは先ほど語った。

 だからこそ愛している妻を裏切らないためにも、「はい、望みます」と言わざるを得ないのだ!

 一体、「人生が5回くらいあったらいいのになあ!そしたらあたし、5回とも違う町に生まれて、5回とも違うものをお腹いっぱい食べて、5回とも違う仕事をして....

 そして5回とも、同じ人を好きになる」

 などと書いた馬鹿は、人生について何も知らないのではないか?少なくとも書いた当時は、結婚していなかったか、結婚して8年も経っていなかったのに違いない!だからこそこんなふざげた厚顔無恥のセリフが浮かんだのだろう!


 話が逸れたが、思い返してみると今考えたことはなんの意味も無かった気がする。おそらく受験前の苦学生が勉強よりも先に部屋の掃除など初めてしまうのと同じで、嫌なことを先送りにしたいという心理が働いているのだろう。

 さていま俺の前にはノーパソに繋がったVRゲームが起動している。そして相変わらず主人公の名前をつけられない。

 確かゲーム内に入って半永久的に暮らすといった話は、アーサー・C・クラークが一世紀以上も前に何かのSF小説で書いていた筈だ。

 確かその小説のオチは、『ゲームを捨てよ、町に出よう!』というテーマだった気がする。しかし昨今流行りのなろう小説にしても、逃避願望は現代の特徴だと思われる。なんせ俺自身がなろう小説大好きで、いつもここではないどこか遠くへ行くことを夢見てきたのだから!


 名前を決めかねた俺は、電子タバコを加えながら5chに糞スレを立てた。

『記憶を保持したまま人生を1からやり直すか、記憶を保持せず異世界転生するのか、どっちがいい?』

 リキッドが切れる頃にはレスが次々と埋まっていだが、意見は大体7対3に別れていた。

 記憶を保持せず異世界転生するのが7割を占め、記憶を保持したまま人生をやり直す方が3割。

 記憶を保持したまま人生をやり直す人物たちの言い分──「神童扱いされるから前者」「前者なら占いだとか予言者だとか株で一生苦もなく暮らせそう」「どう考えても前者だろ、記憶が無くなるなら異世界転生しても意味ねえし」

 記憶を保持せず異世界転生する人物たちの言い分──「後者、なにが悲しくてまた1から人生やり直さなければならないんだよ」「人生1からやり直すとして、赤ん坊の泣いたり笑ったりの演技を上手く演じるのに自信が無いから後者」「今さらこんな苦痛だらけの世界になんの未練があるんだ、後者」

 俺はスレッドを読みながら、のび太がドラえもんに頼んで小学生以前にまで遡り、自分の名前がかけただけで神童扱いされ一躍マスメディアの有名人になるものの、小学五年生になったころから勉強に追いつけず、「ドラえも〜ん」と泣きつくエピソードを思い出していた。

 ああ、そうだ、ドラのび太、ドラえもんの知性とのび太の愚鈍さを表した名前、ドラのび太にしよう!

 VRをつけノーパソを起動しながら、実存主義に関して考えていた。

 実存主義では本質より先に存在が先立つ。(それが悩みのタネだというのに!)

 しかしゲーム内では、名前によって存在より先に本質が先立つ。ドラのび太よ、俺の新しい名前よ!

 どうぞRPGで敵をなぎ倒す喜びを味わいながら、女をはべらせる快楽の園を実現させておくれ!


 気づくとゲーム内にいたが、なにも思い出せない。たまたま通りかかった馬車に物乞いの少年として拾われ、一通りの教育を受ける。そうして4年ぐらい過ごしたころ、傭兵と住民が喧嘩しているのが目についた。

 デジャブを感じながら、住民の方につき、傭兵を説得するとすごすごと過ぎ去っていった。

 (確か報酬に200Gもらえるはずだ...)住民からお礼に200Gもらい、一層激しいデジャブを覚えた。

 それから五年も経ったろうか?繰り返すデジャブと予めの予想によって、やがて何もかも、全てゲーム前の記憶を思い出してしまった!なにしろこれはクリアした事のあるゲームなのだ!

 ゲームから現実世界に戻る方法はないというのは説明書に書かれていた。また、ゲーム内で死んでも、直前のオートセーブから復活し、「ゲーム内で死ぬ心配はありません!」という陽気な文句も!

 では、死ぬことも出来ず、現実にも戻れず、残りのクエストを全て知った俺はどうしたら良いのか?メインクエストが終われば、あとはただただ退屈なお使いクエストだけだ。

 それに女達も、現実世界の記憶を思い出してしまった今となっては、トカゲと人間との雑種だとか、猫と人間の雑種だとか、やたらバタくさい現実には有り得ない顔の女達によって、エレクトすることが無かった。


 もはや死ぬこともできず、未来がすっかりと分かってしまい、女にどんな快楽もない...

 俺はカミュのシーシュポスの神話を思い出していた... シーシュポスは神々の言い付け通りに岩を運ぶのだが、山頂に運び終えたその瞬間に岩は転がり落ちてしまう。

 同じ動作を何度繰り返しても、結局は同じ結果にしかならない。

 ではいったいこれは、なんの罰なのだろうか?俺にとって?現実から逃げVRのゲーム内に異世界を求めてしまった罰か?

 ふざけるな!そんな不条理がまかり通ってたまるものか!俺はずっとゲームに閉じ込められたままだが、いつか、いつかは、このゲーム世界から抜け出すバグを発見するのだ!それまでの、それまでの辛抱だ!ああ...

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