第40話 出会う
琥珀族の
屋敷の周囲には石積みの塀が巡らされているが、門はなく入り口と思われる所に番人が二人立っていた。
話が通っているのか、彼らは
それから
主殿から続く
その中にひっそりと隠れるようにして娘の
短い
堀深い
僅かに目尻の吊り上がった目の奥にある黒い瞳には、隠そうともしない警戒と疑いの念が滲んでいた。
加えて、この男の瞳からは琥珀族の屋敷で会ったどんな者よりも強い敵意が感じられた。
「
前を先導していた近衛兵の呼びかけに、やや間を置いてから、ただいま開けます、と小さな声が返ってきた。
そうして襖が静かに内側から開かれた瞬間、
それは、この光の地には不釣り合いなほどの黒い影を纏った風だった。
その風の向こう、正方形の小さな
娘の身体から湧き起こるようにして、黒い
その中でも一際色濃く
――蛇だ。
その化身から放たれる黒い
しかし、身に抱く娘の魂は未だに喰われてはいない。
そればかりか、黒い
意外だった。とうに魂を喰われて
苦しみを、痛みを必死に耐えたのだろう。
蛇が巻きついている首元には、幾重にも薄布が巻かれ、今もじっとりと鮮血が滲んでいた。
常人であれば発狂し自らの手で命を絶ちそうな術を、この娘は一人歯を食いしばって耐えているのだ。
眠れずにできた目の下の青黒い
やがて、周りを囲っている近衛兵の一人に促されて、
幾度も同じことを繰り返してきたのだろう、娘は
そして、何人もの
しかし、
煙の濃さが充分に増したのを確認すると、目を閉じて僅かに口を開いた。
白い煙は
まるで生きているかのように動く奇妙な煙が娘の首元に伸びた時、傍で見守っていた侍女がひっと小さく悲鳴を上げた。
同時に、後ろで一斉に刀を抜く音がしたが、
白い煙は音もなくするすると娘の首元に巻き付きはじめ、やがて、全身を覆った。
一面に漂っていた黒い
すると、ゆっくりと、しかし確実に、娘の目が徐々に見開かれていく。
それは驚きか、はたまた困惑か、細かく揺れ動く
その瞬間、ひゅうっと甲高い音を立てて娘の喉が鳴った。
音はそれしかしなかった。
そこに居合わせた誰もが息を止め、身動きすら出来ぬ様子で目の前で起きていることを凝視している。
そして、長く深く繰り返される娘の呼吸音だけが一室に響き渡るのを
「ユク様!」
我に返った侍女が発した歓喜の叫び声によって、止まっていた時が動き出したように一瞬にしてその場が慌ただしくなった。
侍女の叫び声を聞いて飛び込んできた黒い瞳の男も、娘の顔色を見るや、呆然とその場に立ち尽くした。
しかし、信じられぬとばかりに顔をきつくしかめると、
「何をした!」
「何も、ただこの娘にかけられた呪術を解いただけだ」
「……呪術だと」
男は啞然として
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