第23話 幼馴染のお部屋
問題。
俺は今、どこにいるでしょう?
「あんまりじろじろみないでください部屋に邪気が宿ります」
「俺の視線ってそんな負のオーラ出してんの?」
正解:凛の部屋!
経緯はとてもシンプルである。
ほんの10分前の出来事。
凛の手料理を米粒残さず堪能した後、凛が突然、
「部屋、来ます?」
いや、本当に唐突にこう言ったのだ。
「へ?」
夏休みの宿題提出時、皆が自分の知らない宿題を提出し始めた時みたいな反応をすると、
「特に深い意味はありません。せっかく休日に来てもらったのですからゆっくりお話をする場として部屋を提供して差し上げようという、私の女神のような優しさが気まぐれを起こしただけですよ」
「もう女神様それ気まぐれじゃなくてデフォルトじゃない?」
「気まぐれです、あくまでも、気まぐれです」
凛が瞳と語調に力を込めて言う。
気まぐれでは無いことは察した。
凛は俺と、自室でのまったりタイムをご所望のようだ。
先ほど凛は、二人で食卓を囲めた事を嬉しいと言った。
その延長だろうと考えた。
小学校の頃はよく、凛の部屋で遊んだものだ。
遊んだと言っても、俺は机で小説を書いて、凛はベットに寝転がって小説を読んで、みたいな感じだったけど。
今回の凛の提案に、きっと深い意味は無い。
心を許されてるんだなあと胸に嬉しみが溢れる反面、異性としての意識は微妙だろうなあと苦笑めいた気持ちになる。
「先に言っておきますが、私は透くんと違い部屋に恥ずかしいものなんて置いてないですからね?」
「い、如何わしいものなんて俺の部屋にもないから!」
「私は恥ずかしいものとは言いましたけど、如何わしいものなんて一言も言ってないですよ? その如何わしい頭で、何を想像したのですか?」
「ナニモ? というか、恥ずかしいものも置いてねーわい!」
「油性マジックで塗りつぶした、あの真っ黒なノートは?」
「待て、だからなぜその存在を貴様が知ってる」
「どうでも良いじゃないですか、そんなこと」
「よくない! 俺の最重要機密事項(ゆいごんでもやしてくれとたのむやつ)!」
他愛のないやり取りをしつつ、俺はおよそ5年ぶりに凛の部屋にお邪魔した。
凛の部屋は、最後に踏み入れた時とそう変わりないように思えた。
桃色のカーテン。
ベッドには猫やくまのぬいぐるみ。
清潔感のあるカーペットには人をダメにするタイプのクッション、本棚には可愛らしい小物類がバランスよく配置されている。
端的にいうと、ちゃんと女の子の部屋であった。
普段はクールで毒舌なのにこの部屋のギャップに驚き……とはならない。
凛はもともと、こういうのが大好きな女の子なのだから。
「あー、やばいこれ、ダメになるわ」
言葉の通り、俺はダメになるクッションに背中を預けてダメになりつつあった。
そんな俺に、猫のぬいぐるみを抱き締めベッドにちょこんと座る凛が冷たい視線を投げかけてくる。
「元々ダメなのでは?」
「お約束のツッコミをありがとう。でもこれ凄くない? 雲の上でお昼寝してるみたい」
「スッカスカじゃないですか。突き抜けてあっという間に自由落下からのお陀仏ですね」
「き、きっと、ぎゅっと身が詰まった雲なんだよ!」
「積乱雲ですか。中で雷に消し炭にされますね」
「なんとしてでも俺を亡き者にしたいという強い意思を感じる」
「だってそうすれば高いところに行けて雲とも仲良くなれるじゃないですか」
「それ他界してるよね?」
いつものように、長い付き合いだからこそ許される遠慮のないやり取りをしていると、
「ん?」
ふと、見覚えのある懐かしいアイテムが視界に入って目を凝らす。
「どうしたのですか?」
凛はこてりと首を横に倒す。
「や、あれ」
一方向を指差す。
「お守り、まだ持っててくれたんだなって」
凛の机の上。
デスクライトのとこにかけられた、ピンク色のお守り。
「……ぁ」
身の抜けたような声を漏らした凛が口を拳で隠す。
その表情には、こう書かれていた。
"しまった"
そして言った俺も俺で妙な気まずさを感じた。
脳裏に思い起こされる記憶。
当時、俺はこのお守りの意味をよく理解せず凛にプレゼントした。
今この歳になって、というかたった今、自分が渡したお守りのご利益を把握した。
ここからは文字までは見えないが……お守りにはきっと、こう書かれているはずだ。
『恋愛成就』
凛の顔が、お守りの色に負けないくらい桃色に染まった。
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