第17話 幼馴染との初々しい日々
小学2年生の初夏。
俺は隣のクラスの女の子、浅倉凛と知り合った。
それからは毎日俺たちは、放課後の図書室で肩を並べるようになった。
俺が小説を書く隣で、凛は漫画を読む。
最終下校時刻のチャイムが鳴る少し前に、俺がその日書き上げた小説を凛に読んでもらう。
そんな日々を繰り返した。
その中で、凛の事が徐々にわかってきた。
「私の話し方、癖なんです」
出会って3日目の、雑談の一コマ。
凛がデフォルトの無表情で言う。
「誰に対しても丁寧にしなさいってお母さんに言われて……丁寧ってなんだろうって思って調べたら、敬語とやらを見つけまして」
それを調べて練習した結果、こんな話し方になったらしい。
今覚えば凛は、とても真面目な性格だったのだろう。
「でも、この話し方のせいか、クラスの人達とはあまり仲良くできてないといいますか……」
ぽつりと、寂しそうに溢す凛。
「やっぱり変、ですよね、これ。他のクラスメイトの皆さんと同じように、くだけた話し方の方が、良い、ですよね」
そんな凛の吐露に対して俺は、
「そんな事ないと思うよ、その話し方、かっこいいし! あと、お母さんの言う事をちゃんと守ったの、すごいと思う!」
当時、大人が駆使する敬語なるものを本気でかっこいいと思っていたのと、絶賛両親に反抗しまくりだった俺の率直な感想だった。
俺の返答に、凛は一瞬驚きに目を丸めて、
「ありがとう……ございます」
なぜこの時、凛がちょっと声を震わせてたのか、俺にはわからなかった。
「私、実はいろいろとダメダメなんですよ」
出会って1週間目の、雑談の一コマ。
凛がちょっぴり恥ずかしそうに言う。
「勉強も運動もダメダメで……何も取り柄がないといいますか……」
俯き、そんな吐露をする凛に対して俺は、
「そんな事ないと思うよ! 凛ちゃんは可愛いし、話し方かっこいいし、真面目だし、全然ダメダメじゃないと思う!」
当時、無自覚ながら凛に惚れていた俺は彼女を励ましたいと思い、思い浮かぶ「凛のいいところ」を勢いのまま口走っていた。
俺の返答に、凛はまた目をまんまるくし、
「ありがとう……ございます」
なぜこの時、凛がちょっと声を震わせてたのか、俺にはわかりそうでわからなかった。
「私、実はクラスに友達がいないんです」
出会って1ヶ月目の、雑談の一コマ。
沈んだ様子で、凛が言う。
「目つきが悪いのとか、表情が変わんないのとか、あんまり私がおしゃべりが得意じゃないのとか……いろいろ良くなくて、ひとりでいることが多くて」
一度息継ぎし、俺の方を向いてから、凛はほんのり笑顔を浮かべて、
「だから、こうして米倉くんと毎日お話できて、私はとっても楽しいです」
凛の言葉に俺は、
「じゃ、じゃあ、俺と友達になろうよ」
少し吃りながら、提案した。
「俺も、クラスに友達いないから……凛ちゃんが友達になってくれたら、すごく嬉しい」
当時、「遠回しに言う」というコミュニケーション手段を持っていなかった俺は、率直に思いの丈を口にしていた。
物凄く恥ずかしかった記憶がある。
俺の返答に凛は、目をまん丸くしなかった。
代わりに目を細め、いつもより弾んだ声色で、
「はい、ぜひ」
なぜこの時、凛が声を震わせていたのか、ちょっぴりわかった。
毎日一緒に過ごすうちに、少しずつ、少しずつ、凛のことがわかっていった。
優しくて真面目で礼儀正しくて、雰囲気が凛としていてかっこよくて、基本無表情だけど笑った顔が可愛くて。
知れば知るほど、凛に惹かれていく自分がいた。
でも当時の俺には恋愛感情とか、付き合うとか、そういった概念が備わっていなかったから、凛の存在は「放課後の図書室で一緒に過ごす友達」の枠を超えることはなかった。
凛もおそらく、同じだった。
だからなのか、放課後以外の時間、ふたりで交流する機会は無かった。
会いたい、という気持ちはあった。
ただ、俺の書いた小説を読むという理由があって放課後の図書室に集まる。
という明確な理由が見つからない以上、他の時間も一緒に過ごそうと言い出すに至らなかった。
そういう部分はお互いにコミュ下手というか、友達ができない要因のひとつをばっちり兼ね備えていたのだろう。
けど、ある日を境に俺と凛は、放課後の図書室以外でも交流するようになる。
──その日、いつもの待ち合わせ時間に、凛は姿を現さなかった。
10分経っても、30分経っても、凛は図書室に、来なかった。
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