第79話 神の靴

 その部屋にはベッドが三つあり、おそらくトーマのと思われるものは、まるで端から誰も使っていなかったみたいにシーツがパリッと敷かれていた。


 一足のスケート靴があった。革は白。エッジは銀色。


「ブーツは小杉。ブレードは燕。……こんな組み合わせ、君たち兄妹だけかと思ってたけど」


 エッジガードは青。

 つまり全てが同じだった。


「……履いてみたら」

「いいのかな」


 洸一こういちくんはゆっくり頷いた。

 まるでスケート靴という物体を司る番人のように。

 その目には静かな光が宿っていたが、続く言葉には妙な親しみを覚えた。


「俺なら使ってもらいたい」


 俺なら使うがね、と寒河江さがえくんがひょっこり顔を出し、うわ今の性格出てる、と可憐かれんが言って涼子りょうこちゃんがくすくす笑った。


 限りなく神々しく光るその靴を、わたしはそっと持ち上げた。

 適切に重かった。

 確かに知っている世界の重さ。


 それでも、本当は全然違うと分かっている。

 その接線に乗るのは一人だけ。

 同じものなんて一つも無い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る