第41話 降幕銀盤

「君の一番大切なものを預かるよ」


 星空が霞んだ。

 潮が足元から引いていく。

 光が消えていく。


 ――汐音しおん


 じゅんの声が聞こえた。


 トリプルアクセルの離氷に失敗し、軸が歪んだわたしの身体は、氷に叩き付けられた。

 すごい衝撃だった。今まで感じたことのない種類の。

 それでも、痛みは無い。

 痛みだけは、ここでは生まれない。


 そのまま立ち上がれず、滑り出すこともできなかった。

 流れは完全に消えた。

 やがて音楽が止まった。

 無様に這いつくばるわたしを残し、天は無情に引き揚げた。


 だからここは、ただのスケートリンクだった。

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