第40話 特別インタビュー

 霧崎きりさき汐音しおん。12歳。小学六年生の女子です。

 父と母と兄がいます。両親は医者です。父は大学病院に勤めていて、母は近所の小児科で働いています。

 住んでるのは前橋で……あ、一軒家です。元々おばあちゃんの家。おばあちゃんは二年前に亡くなりました。前橋は、特に何もありません。まあまあ田舎。県庁のビルが大きい。あとコストコ。

 5歳からフィギュアスケートを習っています。グランピア前橋っていうリンクがあって、結構遠いんですけど、そこのスケート教室にずっと通ってます。

 コーチは朝霞あさか美優みゆ先生です。元々アイスダンスの人。優しいけど、ちょっと怖いかな。短気っていうか。わたしがまじめにやらないのが悪いんですけど。よく可憐とふざけたりしてます。

 可憐は、親友です。滋賀しが可憐かれん。美人だからすごいモテる。男子からよく告白されてるけど、可憐は全然相手にしてない。BTSのジミン? が好きらしいです。わたしはそういうのよく分かりません。アイドルとか音楽、よく分からないんですよね。フィギュアやってるのにまずいって、自分でも思うんですけど。

 じゅんは……あ、兄です、双子の。洵はすごく好きみたいですね、音楽。セカオワとか。あとワンオク? 洵もフィギュアスケートやってて、プログラムの曲自分で選ぶんですよ。すごいですよね。そう、洵は本当にすごいんですよ。勉強めっちゃできて、本とかもめっちゃ読んでます。図書室でよく借りてて、なんか表彰とかもされてました。わたしは一回も借りたことない。教科書読むのもだるい。(苦笑)

 スポーツも得意なんです。サッカーとかバスケとか。……え? わたしじゃないです。洵の話。で、そういうの上手いと、女子が騒ぐじゃないですか。だから毎月告白とかされたりして……ぶっちゃけ、すごいうざいです。女子。だから洵が帰る前に靴箱とか見て、ラブレターとかあったら全部捨ててます。……え? だって、断るって分かりますよね? え、分からない? はあー。いや、分かるでしょ……。

(ため息をつき、しばらくうつむいて無言)


 ……それに、洵、好きな人いるんですよ。美優先生なんですけど。何で好きなんですかね? 大人の女に憧れる時期なんですか? でも、初めて会った時からずっと好きなんですよ。え? 聞いてないです。や、わたしには分かります。だって、洵のことで分からないことなんか何も無い。

 うそ。分からないことはある。スケートのこと。何で洵がスケートやってるのかが分からない。洵は全然スケート上手くないんです。ダブルアクセルとトリプルフリップで何とかしがみついてる感じ。まあ、一定のラインには達してますけど。あ、あとスピン? 身体柔らかいからレベルは取れる。でも、それも今だけじゃないですか。だって、洵最近身体硬くなってるし。シットスピンとか、前みたいに膝深く曲げられなくなってます。男子って、大体中学生くらいまでにやめちゃうんですよ。女子みたいなスポーツとかからかわれて、じわじわ恥ずかしくなってやめちゃう子多い。

 だから洵も早くやめてほしい。あきらめてほしい。……だって、スケートの何がそんなにいいの? 何で洵がスケートにこだわるのかわたしはマジで理解できない。氷上にいると、回路が繋がらないんですよ。何を考えてるのか分からない。気持ち悪い。憎くてたまらない。

 何でスケートやってんの、じゃないんだよ。お前はそれに答えられるのかよ。

 (激昂。その後嗚咽。しばらく中断)


 ……聞けませんよね、そんなこと。怖くて。

 言葉にしたら、わたしたちは本当は繋がってないって、別々の人間だって、本当に決まっちゃうでしょう。


 だから、神様。

 わたしは生まれ変わったら、洵になりたい。

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