第14話 knock, knock

「あなたとジュンくんは全然ちがう。だってあなたはわたしと同じ。女の子だもの」

 影がわたしに触手を伸ばす。黒い根茎がしゅるしゅると足首に巻き付いた。

 微笑むシオリの背後に黒いもやが立ち込める。

 空気がしんと冷えていた。


 ここはリンクじゃない。

 ただ、リンクならいいのにとひたすらわたしは願っていた。

 まるで氷上にいるかのように肺の底から自分が凍っていくのが分かったから。

 このまま透明に。

 そして遠くへ。


 かすかな羽音が聞こえる。

 粉雪のような鱗粉がこぼれ落ちる、その壁を見上げた。


『氷の蝶』 六年三組 霧崎きりさきじゅん

 去年コンクールで優秀賞をもらって、しばらく県庁のホールに飾られていた絵だ。

 戻ってきて、今度は昇降口に飾られている。

 

 暗闇の中、蝶がじっとしている。

 青と水色がモザイク状に敷き詰められた羽根。あれが氷なのだろうか。

 細長い葉が、重みでしなっている。

 脱力しきって見えるから、

 ――これ死んでるの?

 わたしが訊くと、呆れた調子で

 ――死体なんか描くかよ。これは眠ってるんだ。

 わたしは驚いた。

 ――え、蝶って寝るの。

 ――寝るよ。

 こんこん、と洵は幾重にも塗り込めた夜空をノックする。


 でも、まだ自分が蝶になったって気付いてない。

 だから、夢の中では青虫のままかも。

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