第5話 凝視

 透明なカゴの中。

 立てかけられた割りばしに、モンシロチョウのさなぎが固定されている。

 さなぎにカゴなんて、意味があるのかなと思う。

 だって、さなぎは逃げようがない。


 さなぎはとてもやわらかいので、強く触るとつぶれてしまいます。

 さなぎは、幼虫から成虫へと生まれ変わる準備をしています。

 その時、ほんのわずかの部分を残して、一度全部溶けます。

 だから、殻の中はドロドロの虫のスープです。


 加藤先生が言うと、オエーッと誰かが叫んで、男子がゲラゲラ笑った。

 女子は、気持ち悪い、想像したくない、みんなけっこうマジな感じで言ってた。

 そんな中、可憐かれんは机の向こう側から、きりっとした顔立ちのままほんの少し不敵に微笑み、見てみたい、とわたしに向かって唇を動かした。

 わたしは目を丸くした。

 可憐って、虫とか大丈夫なんだ。

 ……まあ、わたしも大丈夫だけど。

 窓から差す光で、可憐の茶色い髪の毛はますます茶色に見える。


 はい、静かに。

 さなぎが殻の中でどうやって蝶になるのかという仕組みは、実はまだほとんど分かっていません。

 でも、そのドロドロに溶けた虫のスープにも秩序があります。

 秩序というのは、決まり事のことです。

 それは、わたし達人間の理解を超えていますが、それでもちゃんとあります。

 それはとても複雑なものです。

 うかつに力を加えたりすると、決まり事が壊れて、蝶になれなくなります。

 さなぎのまま死んでしまうのです。

 だから、触らないように。そのためのカゴです。


 ……なるほど。


 さらさら、かりかり。鉛筆を動かす音がする。

 わたしは絵が苦手だから、どこから描き始めたらいいのか分からなくて、スケッチに手を付けられない。

 仕方が無いからひたすら見ている。

 凝視。

 幼虫でも成虫でもない、どろどろの中身を、透視。

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