第20話 Still Standing on the Ice

 初めて朝霞あさか先生に会った時のこと。


 まだ俺がスケートを始める前。

 汐音しおんの付き添いで、リンクサイドに座って算数の宿題をやっていた。


「君はスケートやらないの?」

「やりません。俺、変な衣装着て踊るの、誰にも見られたくないんで」

 生意気な俺に、先生はあははと笑った。


「カッコいいの着ればいいじゃない。それにね、君みたいな子は一番向いてるのよ」

、みたいな?」


 、じゃなくて?

 先生は力強く肯いた。


「他人にどう見られるかを気にする子は、一番向いてるの。フィギュアスケートは、見られて成り立つ競技だから。……汐音ちゃんは、そこの所ピンと来ないみたい。楽しければいいって。それはそれで大事なことなんだけどね」


「……でも、俺がスケートやったら、汐音とそっくりな部分がまた増える」


 先生は少し考え込むような表情を浮かべた後、強い視線を向けた。


「増えるかもしれないし、増えないかもしれない。やってみなきゃ、分からないわよ」


 そんなことを言われたのは初めてだった。


 そして、やってみたら俺は汐音とは全然違っていたんだ。

 何から何までそっくりだった俺達。

 二卵性なのに、顔まで合わせ鏡のように瓜二つで。

 服さえ替えれば入れ替われると、本気で思っていた。


 でも、スケートだけは違った。

 スケートにまつわる一切が、俺は汐音と違っていたんだ。


 氷上で目まぐるしく更新されていく自分の姿。

 その視座から見える景色。

 全てが新鮮で、楽しかった。


 ……それを、言えばよかった。

 好きだなんて衝動を口にするんじゃなくて。


 初めてスケート靴を履いて氷上に立った日。

 あれは、俺の二度目のバースデーだ。

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