第12話 I want you to hit me as hard as you can.

 殴り慣れていない人間が、人を殴るとどうなるか。

 こぶしを痛めるのだ。


 俺の拳はトーマの頬骨と耳の間に当たり、鈍い痛みと痺れに感覚を奪われた。


 少しの間、トーマは顔の左側を抑えていたが、耳はいてーんだよなと呟いて、口元を歪ませて笑ったかと思うと、今度は俺の頬に拳が飛んできた。


 初めて人から殴られた。

 その衝撃で足のバランスを崩し、俺は氷の上に倒れ込んだ。


「……危なく転ぶところだったじゃねーか」

 これ見よがしに右手を振りながら言い放つ。


 この野郎。タダじゃ済まさない。

 立ち上がって再び殴りかかろうとした俺の腕を、真人まなとが抑える。


「やめてよ! 洵君ってば、どうしたの? 急に殴りかかるなんておかしいよ」

「こいつが挑発してきたんだよ! お前も聞いただろ、アニキだとかふざけたこと言いやがって」

「そんなこと言ってないよ! ねえ? 刀麻君、黙ってないで否定して!」


 トーマは微動だにせず無言で俺を見下ろしている。

 氷面を映し出したように透徹した目が、忌々しくて堪らなかった。

 肩を押さえつけている真人の両腕をありったけの力で振り払おうとした、その時だった。


「お前ら何やってる」

 リンクサイドから低い声が飛んできた。

 止めに来たのは岩瀬先生だった。


「……霧崎。阿久津。それから、ええと、誰だ?」

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