第28話 リンクに一礼

「練習前に報告。今日はグッドニュースがあるぜ」


 晴彦が目で促す。

 俺は頷いて、一歩前に出る。


「このたび俺、星洸一は選手に復帰します。まずは九月の関東ブロック突破、そして全日本ジュニア出場を目指していきますので、よろしくお願いします」


 ずらりと並ぶ高等部総勢二十人を見渡し、礼をする。

 自然と拍手が湧き起こる。


「おかえりなさい」

 端から声が飛んできた。

 見ると、女子マネの滝野さん。

 ……そういえば、君も足の怪我で競技を断念してマネージャーに回ったんだったね。


「遅いぞ!」

 すかさずその隣から声を投げてきたのは、二年の滋賀ちゃん。

 全日本ジュニアの女王様は気が強い。


 思わず俺は苦笑する。

 ああ、本当に、遅くなってごめん。


「男子も女子も、榛名学院が台風の目になろうぜ」

 晴彦の言葉に、たちまち霧崎が溜息をついた。


「お? なんか文句ありそうなヤツが一人いる」

「フィギュアスケートは個人競技ですから。俺以外全員敵です」

 言うやいなや、霧崎は俺に挑発的な微笑みを投げる。


 まったく、フィギュアスケーターってのは好戦的なヤツが多くて、相変わらず俺は戸惑ってばかりだ。

 でも、霧崎。俺は負けないよ。


「洵君、アウトレイジみたいなこと言ってる」

 阿久津の突っ込みに笑いが巻き起こり、霧崎はうるさいな、と阿久津の脇腹を肘で小突いた。


「では、まずはフットワーク練習から。岩瀬先生、朝霞先生、よろしく」

 浪恵先生の声に、皆がリンクに隊列を組み始める。

 俺も、今日から本格的に加わる。


「待てよ、洸一」

 晴彦が腕組みをして、俺の前に立ちはだかった。


「リンクに一礼だ。……それが、ここのルールだぜ」

 俺の目を真っ直ぐ見て、ニヤリと晴彦が笑う。

 応えるように、俺も笑う。


「よろしくお願いします」

 いつもより大きな声で言って、俺はリンクに深く頭を下げる。

 そして、やあ、調子どう? 

 胸の中で囁いて、氷に足を乗せた。


 芝浦が、そっと親指を立てて微笑んだ気がした。



(第二章 終)

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