で、お前、なにしに来た?
しばらくすると、鳩ではなく、早馬がやってきた。
「アントン様っ」
と馬を降りる前から、兵士がアントンの名を叫んだ。
「うむ。
なにかわかったか?」
アントンは急いで訊く。
「今の料理長の二代前にはもう、地下へ下りる呪文はわからなくなっていたことがわかりました。
自分の腕が悪くて、教えてもらえなかったわけではないとわかって、料理長は大層喜んでおります」
「……そうか。
よかったな」
とアントンが言うと、
「では」
と言って、早馬はまた駆け戻っていってしまった。
今の早馬はなにを伝えに来たのだろうか……とアキは思う。
料理長が喜んでいます、かな、と苦笑いした。
「気の長い話になりそうですね~」
土埃を上げて馬と人が去った方角を見つめながらアキは呟く。
この調子ではすぐに見つかるとは思えない。
「なにか美味しいものでも食べたいですね。
気分転換に。
ほら、美味しいものがあるだけで、気分が変わるではないですか。
ちょっと迷いの森まで戻って、イノシシをフリーズドライしてきましょうか」
「食いたくなかったんじゃないのか、イノシシ」
王子は溜息をついたが、
「仕方ない。
使いの者を出そう」
と言ってくれた。
「城にですか?」
「莫迦。
イラークにだ。
弁当でも配達してもらおう」
それは嬉しいな、とアキは喜ぶ。
「ほう。
我々のもお願いしていいか」
とアントンが言ってきた。
「それは構わぬが。
此処は我らに任せてくれてもいいぞ。
お前もいろいろと忙しいだろう」
王子はアントンを気遣うが、
「いや、此処はうちの国から近い。
いつ我が国にもこの亀裂がやってくるかわからない。
私も最前線で見届ける義務があるように思うのだ」
そう言い、アントンは崖下を見下ろした。
アキは、飛んでも渡れそうにはない切り立った崖の向こう側の地層を眺めながら、
壮大だな~、大地って、とちょっと呑気なことを考えていた。
この下にお母さんはいるのだろうか?
いや、我々の世界をフラフラしていたりもするから、ずっと生贄でいるということはない気がする。
そして、下にいるのは、私のお父さんなのだろうか。
今まであの商社マンの人を父だと思っていたが、違うのだろうか。
しかし、地下にいるものの姿を妄想してみても、どんなのだか想像もつかないので、怪しくうねうねした影とか。
怪しくうねうねした、トゲ付きのイバラの森みたいになってしまう。
……植物じゃん。
お父さんという感じではない。
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