崖の下を覗いてみました
「うわ、すごい深い谷みたいになってますね」
アキたちは問題の地面が割れたという地点まで来ていた。
端まで行って、中を覗き込む。
何層にも重なる地層まで見えた。
「落ちますよ。
アンブリッジローズ様、王子」
と後ろからラロックが止めてくる。
「これは義経でも駆け下りられませんね」
とアキは呟き、
「義経ってなんだ」
と王子に言われてしまったが。
「大地も呼吸しているというからな。
こう、ときに口を開けてみたくなるのかもしれないな」
と王子が言う。
「この底になにかいるんですかね?」
「生贄を捧げるくらいだからいるんだろうよ」
アキは沈黙して谷底を眺めた。
「もしも、生贄になった姫というのが私の母親なら、私の父親はこの底にいるということですかね?」
王子がアキを見つめる。
「お前は父親の顔を知らぬのか」
「いいえ」
「……いいえ?」
とさっきまで沈黙して控えていた全員が王子と一緒に訊き返していた。
「うちの父親は商社マンです。
海外に行っていて、普段はいませんが」
「なんだ。
ショウシャマンとは」
「かなりの確率で、家庭を
「そうか……。
我々より忙しそうだな」
王子が顎に手をやり、呟く。
いや、そこまでかは知りませんけどね、とアキが思っていると、
「待て。
じゃあ、この底にいる奴、お前の父親じゃないじゃないか」
と王子が言ってくる。
「いや~、でも、誰かほんとうの父親かなんて、母親にしかわからないではないですか」
「……お前はなんという恐ろしい話をするのだ」
男性陣が違う意味で怯えて言ってくる。
「まあ、此処でごたごた言ってても仕方ないので、下りてみましょうか」
アキは底の見えない岩肌を見つめた。
「なんという危険なことを」
とラロック中尉が言い、
「生贄になってしまうぞ」
と王子が言った。
「いや、入ったもの、なんでもかんでも、即、生贄ではないでしょうよ。
でも……」
とアキは眉をひそめる。
「ボルダリングはやったことあるんですけど。
カラフルな石がないと下りられません」
なんだそれは、と王子に言われてしまったが。
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