深いですね……


 アキたちがそんな話をしている間、ラロックはずっと王様に捕まっていた。


 国に戻ると言ったせいで、一年分くらいの服を見立てさせられているようだ。


 儀式のスケジュールを聞いたりして、ああでもないこうでもないとやっているようだ。


「やはり騎士はやめて、デザイナーになったらいいんじゃないですかね?」


 王様と仕立て屋とラロックがいる広間を覗いてアキたちは通り過ぎる。


 王子が、

「……あいつはお前のために、本物の騎士になると言っていたじゃないか」

と何故か突然の嫌味をかましてきた。


「王子は本物の王子になられたんですか?」

と言い返して、


「……お前はいつ、本物の王子妃になるのだ」

とやり返される。


 その横で、アントンが腕組みし、渋い顔をしていた。


「本物の王子にか。

 私はなれてないな……」


 ああっ、しまった、この人には冗談ごとではなかったと慌てる。


「いやまあ、今の私にできることは、完璧にはいかないだろうが、国の民にどのような不満があるのかをよく知り、対処していくことだけだな」


「ご立派ですね」

とアキが言うと、


「私がご立派ではないみたいだな」

と王子が、すかさず言ってくる。


「いちいち引っかからないでください」


「いじけているだけなのだ、気にするな」

と言ったあとで、


「おかしなものだな」

と王子は言った。


「私は今まで、それなり自分に自信を持っていたのだが。

 お前がなにか言うたびに気になって仕方がないのだ。


 私はこんなに小心者だったかと思って……」


 そんな王子の言葉にアントンが笑う。


「恋というのはそういうものだろう」


 アキが、

「そうなのですか。

 私もよくわかりませんが。


 そういうものなんですか? アンブリッジローズ様」

と下の方を見て言うと、男二人が、わあ、びっくりした、という顔でそちらを見る。


「……まだいらしたんですか」

と王子が呟いていた。


 アンブリッジローズは深くうなずき、言う。


「男も女も同じだ。

 そういうものだ」


「アンブリッジローズ様はお好きな方とかいらしたんですか?」


 まあ、若き折にいたとしても、その相手は、それこそ、もう何代も生まれ変わっているかもしれないが、と思いながらアキが言うと、


「まあ、いたようないなかったような。

 だが、どんな男も今振り返れば若造」

とアンブリッジローズは言う。


 そ、そうですよね……と思っていると、

「ま、そこに思い出が付随ふずいすると、また違うがな」

と言って、アンブリッジローズはちょっと笑ったようだった。


「深いですね~……」

とアキは頷く。




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