花嫁のれんの秘密を話そう


「なにかいまいち目的は達せられなかったが、約束だ。

 あの花嫁のれんの秘密を話そう」


 ガゼボに戻り、アキたちはアンブリッジローズの話を聞いていた。


 いや、秘密を話そうって、此処、めちゃくちゃ使用人の方とか行き交ってますけど、と思ったのだが、アンブリッジローズは語り出す。


「もらったんだ、あの花嫁のれんとか言うものを」


「誰からですか?」


「おばからだ。

 作るのにハマッたらしくて、大量に作って若い娘たちに配ったんだ」


「……うちの近所のおばさんにも居ましたよ。

 ハワイアンキルトにハマッてご近所さんに配ってる人が。


 可愛いんですけど、何処にかけようかなと迷って、タンスにかけて、まだそのままなんですけど。


 っていうか、あれ、大量生産されたものだったんですね?」


「もともとはな。

 当時若い娘だった私ももらってしまい、ちょっと困ったんだ。


 嫁に行くときに使うものらしいのだが、私は魔術を極めようと思っていたので、嫁に行く予定はなかったしな。


 でも、世話になっているおばさまの手前、私はそれを活用しようと思って、花嫁のれんに術をかけ、それで時の洞窟への入り口を開くことにした。


 ところがマダムヴィオレはその花嫁のれんの使い道を思いつかず、

「ちょっと置いておいてよ」

と言って、私の塔に置いていってしまったのだ。


 奴も結婚する気はさらさらなかったらしい」

とアンブリッジローズは語る。


 なんか……自由気ままな人たちの集団だったんだな、と思いながら、アキは、


「で?」

と言った。


 は? とアキの問いかけの言葉に、アンブリッジローズは訊き返してくる。


「花嫁のれんの秘密とは?」


「いや、あれ自体は大量生産されたものだというのが秘密だ」


「秘密じゃないじゃないですか~。

 それにしても、なんで、加賀藩の花嫁のれんがこの世界にあるんですかね?」


「昔から異世界から来る人間はいるから、向こうのものがこちらに広まったのか。

 こちらのものがあちらに行ったのか。


 時間の流れは一定ではないしな。


 まあ、うちのおばは珍しいもの好きだったから」


「そのおば様は?」


「千年経ってるんだぞ。

 いや、私以外は数百年か、それ以下か。


 もう二、三度生まれ変わってるんじゃないのか?


 そういえば、今の王の姪がおばに似てるから、あれかもしれんなあ」


 なんか……ゆる~く流れてんな、此処の時間、とアキは思う。


 でもまあ、と王子はを開いた。


「元はただの花嫁のれんでも、アンブリッジローズ様のように、なにかの門に変化へんげさせる人間がいると、ただののれんではなくなるわけだから。


 お前の母親の花嫁のれんもなにかの力により、変化したのかもな」


 うーん、そうですねーとアキは言ったが、その答えはまだわからなかった。






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