どうやって間違えるんですか……



「私のお母さんは生贄か。

 なんかヘビーな感じですね。


 いや、今も生きているような気はするんですが」


 中庭に出ながら、アキがそんなことを呟くと、

「生きているような感じってどんな感じだ」

と王子が突っ込んで訊いてくる。


「いや~、そういえば、物心ついてからも、時折、見たり見なかったりしたような気がして……」


 そう曖昧に言って、

「お前の母親は怪現象か」

と言われたとき、藤棚の方から声が聞こえてきた。


「お前の望みを叶えてやろう」


 外廊下でお茶道具を運んでいたあの使用人の若い男に、藤棚の下からアンブリッジローズが声をかけているところだった。


「まだいたのですね、アンブリッジローズ様……」

とアキが呟くと、アントンが、


「アンブリッジローズ姫がふたりいるとややこしいな。

 間違えるではないか」

と言ってくる。


 いや、どうやって間違えるんですか……。


 自称1000歳のアンブリッジローズ様と間違えられたくはないし。


 若き日のアンブリッジローズ様とは間違えられたくても間違えられないし、と思っていると、藤棚の方を見ていたアントンがにやりと笑い、


「もしや、アンブリッジローズ様は、あの若い男が気に入っておられるとか?」

と言い出した。


 そんなこともあるまいが、と思いながら、アキは王子に訊いてみた。


「いいんですか?

 一応、アンブリッジローズ様は王子の本物の婚約者ですよね」


 そのとき、こちらに気づいたアンブリッジローズがアキを手招きしてきた。


 はい、と行くと、

「お前、ちょっと私にリバースをかけてみろ。

 こうも逃げられるとムカつくではないか」

と言ってくる。


「わ、わかりました。


 ……リ、リバースッ!」

とアキがアンブリッジローズに向かい、手を伸ばすと、細胞の内側から美と若さが弾けるような美女が現れた。


 が、一瞬のうちにかき消える。


「うーん……。

 長くは持ちませんね~」

と呟くと、アンブリッジローズが、


「お前、後ろでかけ続けろ」

と言い出した。


「ええっ?」


「さもなくば、あの花嫁のれんの秘密を聞かせてやらんぞ」


 ええっ?

 そもそも、そんな秘密があったんですかっ、と思っていると、王子たちが、

「わかった。

 俺たちがサポートする」

とどうサポートするつもりなのか、肩を叩いてきた。





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