どうした? しんみりして
「どうした?
しんみりして」
と王子に問われ、アキは、
「いえ、祖母の味を思い出してしまって」
と言う。
こういう言い方すると、祖母を食べたようにも聞こえるな……と生贄の話を引きずり、アキは思う。
いや、ケモノが襲ってきても、サーフボードでシトメそうな祖母なのだが。
「お前のおばあさまの味か」
しみじみ言う王子も懐かしい家庭の味を思い出しているのかもしれないと思ったが。
そういえば、こういう人って料理長とかが作るんだったな、と気がついた。
まあ、うちにしても、柚子と醤油で食べる水炊きを祖母の味、と呼んでしまっていいのかはわからないが。
……いや、今、そんなことを考えている場合ではなかったな、と気づいたアキはアンブリッジローズに問うてみた。
「あの、生贄にされたって……?」
いまいち緊迫感が湧いてこないので、ぼんやりと訊いてしまう。
それがいつの話なのか知らないが。
生贄というからには若い処女のような気がするのだが。
ならば、それは自分が産まれる前の話ではないのか。
だったら、そのあともマダムヴィオレは生きていたことになる。
こうして娘の私が生まれているわけだから。
そこで、ん? と思ったアキは、アンブリッジローズに訊いてみた。
「待ってください。
じゃあ、もしや私は生贄を要求したなにかの子ども……?」
「そうとは限らん。
逃げ出してそのあと出会った誰かとの間にもうけた子どもかもしれん。
まあ、私も湖の友人も世俗のことには
マダムヴィオレが生贄になっていたのも知らなかったと言う。
どんな友人だ、と思うアキに、アンブリッジローズがしみじみと言ってきた。
「まあ、私は長い間、時の洞窟にいたし、奴は湖に落ちていたし」
そして、もうひとりは生贄とかどんな天中殺な仲間だ、とアキは思う。
「ああ、そうそう。
アキよ。
お前が気にしていた城のしきたりだが。
各王宮でも違うものだし。
さほど気にする必要はない。
誰にでも愛想良く優雅に微笑めばいいのだ。
……私にはできぬがな。
じゃあ、またなにか情報があったら教えよう。
ああ、くれぐれも
と言われ、ははは、とアキが笑ったとき、そこから消えようとしたアンブリッジローズが紅茶もってきてくれた使用人を振り返った。
「なかなかいい淹れ方だった。
なにかお前の望みを叶えてやろう」
とその男に笑いかけ、けっ、結構ですっ、と断られていた。
得体の知れないものに願うとロクなことにならないとわかっているのだろう。
賢い人だな、と思いながら、アキは苦笑いしていた。
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