手土産、なににしましょうか?
王子とともに馬に乗ったアキは王子を振り返り訊いてみた。
「そうだ。
アントン様のところになにか手土産を持ってご挨拶に行きましょうか。
帰りに寄れと言われたことですし」
「挨拶ねえ」
と王子は眉をひそめる。
「……だが、よく考えたら、あいつにはなにも世話になってないよな。
お前をかっさらわれただけじゃないか」
まあまあ、とアキは笑い、
「食べ物とかどうですかね?」
と言った。
「どうですかね? パリスさん」
途中まで道が同じパリスに、そう訊いてみる。
「いいんじゃないですか?」
パリスは微笑んで言ってきた。
「でも、高貴な方は食べ物の贈り物は警戒されるんでしょう?
毒が入っていてもいけないですし」
そんなパリスの言葉に、アキは、
うーむ。
高貴な方でないので知らなかったな、と思っていた。
だが、そういえば、外国の百貨店がオリジナルの包み紙で商品を包むのは、もともとは、誰も開封して悪さをしていませんよという証明のためだったという。
王族だともっと警戒するんだろうなと推察できた。
「でも、どんな人だって、アンブリッジローズ様が贈られたものを警戒されたりはしないんじゃないですか?」
そうパリスは笑って言ってきたが。
「いや……。
こいつが贈るものは違う意味で警戒した方がいい。
っていうか、お前、なにを贈る気だ」
そう言い、王子は横目に見てくる。
「そうですね~。
なにもないので、森でなにかとってくるとか?」
アキが頭に思い浮かべたのは、たわわに実った果実だったのだが、王子たちの頭の中は違ったようだ。
「……大量にいる迷いの森のイノシシか?」
そう王子が呟き、ラロックが抜群のタイミングで呟く。
「イノシシをざく切りに……?」
「血抜きして、フリーズドライか?」
王子もこちらを見て言い、ひいいいいっとパリスが叫ぶ。
パリスの顔色は、それこそ血抜きされたかのように青白くなっていた。
「ああ、宝石とかでいいんじゃないか?」
と適当なことを言ってくる王子に、
「え?
何処にあるんですか、宝石」
あのアンブリッジローズ様の魔法の箱か?
と思いながら訊いたのだが。
王子は、
「いや、この間、湖で財宝を少し取りこぼした気がするんだ。
隅々まで探してみたら、小さい指輪とかなら出てくるんじゃないのか」
と適当なことを言ってくる。
「いやあ、まず、あの湖がまだ存在しているかどうかですよね~」
とアキが言うと、王子は、
「湖がなくても女神を呼び出してくればいいんじゃないのか?」
と言い出した。
「いや、どうやってですか?」
「……穴を掘る?」
女神様、普段、土の中にいるだろうか?
と思ったのだが、水が地下から湧き出してくる感じがするからだろう。
「でも、それだとまた旅路が蛇行してしまいますよね」
とアキが言うと、王子は、
「じゃあ、やっぱり、交通標識でイノシシを
とまとめようとしてくる。
気のせいだろうか。
パリスの馬が少しずつ離れて遠ざかっていく気がする……。
そうアキは思っていた。
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