なんという……っ!


「いや、やりませんって~、イノシシをフリーズドライになんて~。

 途中の街でなにか買っていきましょうよ」

と言って寄った途中の街で、アキたちはパリスとは別れることになった。


 パリスは此処から小さな砂漠を越えた街に帰ると言う。


「絶対、充電器持ってこいよ」

と別れ際、王子が言うと、パリスは、ははは、と笑って言ってきた。


「大丈夫ですよ。

 血抜きされて、ざく切りにされたら困るんで」


 では、皆様、また、と手を振り、パリスは馬で去っていった。


 賑わっている街中の道に立ち、アキは共に馬から下りた王子に言った。


「すみません、王子。

 少しお金貸してください」


「莫迦か。

 俺のものはお前のもの。


 俺の金はお前の金だ」


 なんという逆ジャイアン!


「すみません。

 じゃあ、ちょっとお借りしますね」

と言って、アキたちは土地の果物や装飾品などを少し買って、アントンの城へと向かった。




「おお、王子、タイガー・テールよっ」


 城の中に案内された途端、王が自ら迎えに出てきてくれた。


 いえあの、名前、元に戻ったんですけどね、と思うアキたちに、王は、

「ラロック中尉はおるのかっ」

と訊いてくる。


「あ、はい」

とあとからやってきたラロック中尉をアキが手で示すと、


「待っておったぞ、ラロック中尉!

 式典のために、新しい服を仕立てた方がよいと国民も言うので、仕立て屋を呼んだのだが。

 ちょっと見立ててくれまいか」

と言って、いそいそとラロック中尉を何処かに連れていってしまう。


「ラロック中尉を連れてきたのが、一番のお土産だったみたいですね」

とアキが笑ったとき、アントンが息を切らせて入り口のホールにやってきた。


「おお、王子。

 そして、タイガー・テールよっ。


 戻ってまいったのか」


「いや……だから、名前変えに行ったので、名前、元に戻ってるんですよね」


 ともかく歓迎を受け、またあの庭のガゼボでお茶をいただいていたのだが。


 アンブリッジローズの身代わり花嫁である話になった。


「確かに。

 本物のアンブリッジローズ姫と入れ替わっているのなら、城に帰ったあとが問題だな。


 我らと同じように王族の暮らしには慣れていないだろう」

とアントンが言う。


「はあ……。

 私、庶民の出ですしね。


 この庶民め、といきなり無礼討ちにされてもなにも言えません」


「……いや、うちの国にそんな奴いないからな」


 どんな妄想が広がってるんだ、と王子は言うが、不安は不安だ。


「誰かこう、城でのマナーとか教えてくださる方がいるといいんですけどね」

とアキは言ったが、アントンは、


「うーん。

 力になってやりたいが。


 うちでは無理だぞ。

 まず、我々が学ばないとって感じだからな。


 前の王に仕えていた、しきたりに詳しい使用人なんかは、いい機会だからと、もう隠居してしまったりしていないしな。


 そうだ。

 一緒に王族の心得みたいなのを学ぶか。


 王子、教えてくれないか?」

と振られた王子は、


「……男はともかく、女のことはわからんからな。

 誰に訊くのがいいのか。


 アンブリッジローズ様が適任だったかもしれないが」

と呟くが。


「いやあ~。

 あの方、ものすごくめんどくさがりそうですよ、そういうの」


 そもそも、そういうのが苦手で塔にこもっていたのではなかろうか、と思っていると、


「そうだな。

 アンブリッジローズ様の塔からもうずいぶん遠ざかってしまっているしな」

と王子は言う。


 確かに、もうこれ以上引き返すことはできない。


 あとは進むのみだ。


「まあ、お呼びすることはできるかなと思うのですが。

 またやるとキレられそうなので」

と苦笑いし、一口お茶を飲む。


 ガゼボを囲む薔薇の香りと紅茶の香りが混ざり合っていい感じだ。


 この国の乾いた風で喉も乾いていたので、染み渡る。


『莫迦か。

 俺のものはお前のもの。


 俺の金はお前の金だ』

という王子の言葉を思い出していた。


 お金なんて別にいいけど。


 なんかああいうこと言われると信頼されてる感じがするな。


 私もその王子の信頼に応えねば。


 この人を好きかどうかはよくわからないけど……と思いながら、アキはアントンと話している王子をチラと見た。



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