始まりの塔
「なにしに戻ってきた、タイガー・テール」
ぐつぐつなにかが煮えている巨大な鍋の前で仁王立ちになり、本物のアンブリッジローズが言ってきた。
いや、その名前を変えてもらいにですよ、と思ったのだが、アキの視線はあの花嫁のれんを向いていた。
「なんだか怒涛の騒ぎで追求しそびれてたんですけど。
これ、うちの蔵にあったのと同じものですが、何故、此処にあるのですか」
今、訊くか、という呆れ顔でアンブリッジローズが言う。
「それは私の友人が置いていったものだ」
「友人?
なんという名前の方ですか」
「お前は名前にこだわるな。
名前なんていつでも付け替えられるものなのに。
マダムヴィオレだ」
マダムヴィオレ……。
お母さんじゃないのか、と思ったが、今のアンブリッジローズの言葉が気になった。
「……名前なんて付け替えられるものなのにってことは、そのマダムヴィオレ、今は別の名前かもしれないということですよね?」
「案外莫迦じゃないな」
そうだ、とアンブリッジローズは言う。
「では、今の名前は?」
「知らん」
「……マダムヴィオレは何歳くらいの方なんですか?
結婚されてるんですよね? マダムっていうくらいだから」
「結婚はしているが、それでマダムなんじゃないぞ。
マダムヴィオレという名前なんだ」
「じゃあ、マダム・マダムヴィオレになってしまうじゃないですか」
その辺、どうでもいいだろう、とアンブリッジローズは眉をひそめて言ってくる。
「お前はマダムヴィオレが自分の母親ではないかと疑っているのだろう」
はい、と頷くと、
「そうだな。
私もお前が友人の子ではないかと今は疑っている。
よく見ればそっくりだ。
……ああ、ほんとうにそっくりだな」
とアンブリッジローズは今頃になって驚いたように言ってきた。
いや……何故、最初に気づかなかったんですか。
1016歳だからですか。
私より頭はしっかりしてそうですが、と思ったが。
おそらく、そんなことどっちでもいいからなのだろう。
元からの性格なのか、1000年生きたからなのか。
細かいことはどうでもいいようだった。
その話をすると、アンブリッジローズは首をかしげながら言ってくる。
「実は、自分が何歳なのか。
自分でもよくわからんのだ。
時の洞窟で長く修行し、私の感覚で1000年経った頃、こちらに戻ってきたら、すっかり世界は様変わりしていた。
そして、私はすでに伝説の人となっていたのだよ」
1000年は自己申告だったんですか。
「こちらでは1000年も経ってはいないようなんだが。
まあ、かなりの時間が流れたことには違いない。
ちょっと湖にもぐったはずの友人が女神になっていたからな」
「えっ? もしや、あの湖の女神様ですか?」
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