旅立つ前に教えてやろう


「いやあ、やっぱり、肉を食べると元気になりますよねー」


 塩胡椒が絶妙な肉を食べ終わり、アキが言うと、王子が、

「美味かったが、なんの肉だったんだ」

と横で呟く。


 特に説明がないままだったからだ。


 ちょうど横をイラークが通ったので、

「イラーク様、なんの肉なんですか? これ」

とアキは問うてみたが。


 イラークは、俺の料理に説明を求めるな、という感じの冷ややかな目でこちらを見て、


「人間以外」

と言って通り過ぎる。


「……否定されると、逆にそれが真実のような気がしてくるのは何故なんでしょうね」

と青くなっていると、料理を手にまたイラークが戻ってきた。


 チラとビールを運んでいた巨大うさぎと目を合わせ、

「あの肉は、うさぎ」

と言った。


 うさぎがビクついたところで、

「以外」

と言って、テーブルに果物のたくさんのったババロアのようなものを置いていく。


 いやあの、以外、までのが長すぎなんですけど……。


「王子、王子っ。

 やはり、連れていきましょうか、あのうさぎ」

 ひそひそとアキは王子たちに言った。


「きっとイラーク様には、あのせっせと働いているうさぎも『肉類』としか見えてないんですよ」


 そのうち裏で火にかけられて、ぐるぐる回されるに違いないですっ、とアキは主張した。


「別に連れていってもかまわんが……。


 いや待て。

 目立つだろうが、あんな巨大なうさぎを連れて歩いたら」

と言う王子に、


「では、宝石みたいにお国に送るとか」

と提案する。


「馬車は返してしまったし。

 あったとしても、乗れないだろうサイズ的に」

 王子はさっきより必死に働くうさぎを見ていた。


 食われたくないので働いているのだろう。


「というかな。

 いつまでも花嫁を連れて帰らず。

 宝石を送りつけたかと思ったら、今度は巨大うさぎ。


 そのうち、国から文句言われるぞ」

と王子に言われる。


「まあ、そうかもなんですけど……」

とアキが言ったとき、そのひそひそ話を聞いていたミカが、


「だ、大丈夫ですよ。

 うさぎ、私が可愛がってますから」

と言ってきてくれた。


 とりあえず、その言葉を信じて、旅立つことにする。


「あのうさぎ、次に来たときは服着て言葉しゃべってそうですよ」


 出立の準備をしながらアキが言うと、

「いや、宙に浮いてそうな気がするぞ」

と王子が言う。


「マジシャンですか」

とラロックが言ったので、もうアキの頭の中では巨大うさぎがステッキを持って、シルクハットをかぶり、宙に浮いていた。


 そんな妄想を繰り広げていると、見送りに出てくれたイラークが言う。


「そうだ。

 旅立つ前に教えてやろう。


 異世界からこちらに来る奴はぼちぼちいるが。

 飛んでくるには、なにかのきっかけがあるそうだぞ」


「きっかけ……?」


「まあ、お前と他の異世界人が、同じ世界から飛んで来ているのかどうかわからないから、なんとも言えないけどな」


 ありがとうございます、と礼を言って王子とともに、馬にまたがる。


「だいぶん、サマになってきたな」

と言う王子に、


「もうひとりで乗れそうですかね?」

とひとりで乗れたら免許皆伝な気がして言ってみたのだが。


 王子は渋い顔をして素っ気なく、

「まだまだだろ」

とさっきは褒めたくせに言ってきた。


 なんなんだ……と思いながら、アキはそのまま王子の操る馬で旅立った。





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